三つの旗のもとに アナーキズムと反植民地主義的想像力 [著]ベネディクト・アンダーソン
[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史) [掲載]2012年06月03日 [ジャンル]政治
■ナショナリズムの生成たどる
東京・日比谷公園に見慣れない胸像がある。ホセ・リサール。フィリピン独立運動の父として知られる小説家だ。
本書の主人公はリサール。『想像の共同体』の著者アンダーソンが、その続編的位置づけとして描いたのは、フィリピン・ナショナリズムが19世紀末という「初期グローバリゼーション」の中、国際的ネットワークの網目で創造されていくプロセスである。
リサールは20歳の時、ヨーロッパに旅立ち、スペインを皮切りに各地を転々とする。彼が過ごした1880年代のヨーロッパは、アナーキズムの嵐が吹き荒れ ていた。アナーキストたちはダイナマイトの発明によって、支配者に抵抗する破壊兵器を手にする。植民地統治下のナショナリストはアナーキストを模倣し、武 装蜂起を構想。リサールの小説は、ヨーロッパの革命ムーブメントの中で描かれ、フィリピンの若き闘士の暴力的決起を促した。
リサールの想像力は、キューバの独立運動と呼応する。1895年のホセ・マルティによる蜂起は、同じスペイン支配下にあったフィリピンを刺激し、独立運動が活発化する。時は、折しも下関条約が締結された直後。台湾を領有した日本が、目の前まで近づいていた。
1896年、秘密結社カティプーナンによって、武装蜂起が挙行される。当局は独立闘争の象徴となっていたリサールを銃殺。運動は加速化し、1898年には独立政権の樹立が宣言されるが、今度は新興国アメリカの帝国主義に飲み込まれた。
アナーキストの黒旗、キューバ国旗、そしてカティプーナンの旗。三つの旗はトランスグローバルな人間関係によって交差し、自由への闘争が生起した。アンダーソンはこれを「政治の天文学」と呼ぶ。
アジアのナショナリズムは世界と呼応・連鎖しながら生成した。その姿はダイナミックかつ美しい。
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山本信人訳、NTT出版・3780円/Benedict Anderson 36年生まれ。著書に『定本 想像の共同体』など。
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