2010年4月14日水曜日

asahi shohyo 書評

アラマタ美術誌 荒俣宏さん

[掲載]2010年4月4日

  • [文]浜田奈美 [写真]麻生健

写真:荒俣宏さん(62)拡大荒俣宏さん(62)

■美術の枠超え 物語は広がる

 なぜルネサンス期の絵画には、過剰なまでに物ですき間を埋め尽くした絵が存在するのか。日本の左官職人が創作した漆喰(しっくい)彫刻「鏝(こて)絵」にこめられた意味合いとは——。

 どんな謎も、博物学者アラマタの手にかかるとアラ不思議。ひとつのキーワードから美術の枠組みを超え、縦横無尽に物語空間が広 がっていく。例えば、人が絵を描くようになった起源の話から美術史における「影」の位置づけの変遷に至り、ドイツの探検家フンボルトが見つけた「インコ」 の話へと発展していく、という具合に。

 本著は、日本大学芸術学部での講義などに加筆したもの。「13テーマ分の講義を全部入れるつもりでしたが、あれこれ加筆していたら、ふくらんでしまって。残念ですが、ひとまず今回は3テーマ分に絞りました」。あふれ出る知識。いかにも"アラマタ的"だ。

 博物学者、作家、翻訳家として世に知られるが、当人は「在野のライターですよ」という。1985年に発表した小説『帝都物語』 の大ヒットで世に知られたのち、全7巻の大著『世界大博物図鑑』などを著し、テレビ番組にもしばしば登場し人気を集めた。知識の多くは大学などで得たもの ではなく、古本屋の棚に目を光らせ、深夜にせっせとオークションで競り落とした希書収集の成果だ。

 ところが情報化社会の荒波とでもいうべきか、手作業で集めてきた貴重な情報や知識のたぐいが、テレビやネットの影響でどんどん フラット化、メジャー化している。「本当にマイナーな情報を発信することが難しい時代。広大な埋め立て地で数千年前の遺物を発見するというような離れ業を 求められています。在野のライターとしては、楽しくもあり、厳しくもあり」

 本著も「離れ業」のたまもの。一層ワザを磨くべく、好奇心のアンテナを張り巡らしているという。

表紙画像

アラマタ美術誌

著者:荒俣 宏

出版社:新書館   価格:¥ 2,940

表紙画像

帝都物語〈第壱番〉 (角川文庫)

著者:荒俣 宏

出版社:角川書店   価格:¥ 740

表紙画像

蟲類 (1) (世界大博物図鑑)

著者:荒俣 宏

出版社:平凡社   価格:¥ 16,311

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