2010年4月12日月曜日

asahi shohyo 書評

ボローニャ紀行 [著]井上ひさし

[掲載]週刊朝日2010年4月9日増大号

  • [評者]温水ゆかり

■いま必要かも"おら達で決める"魂

 その昔、ある人から"ボローニャはイタリア共産党の牙城にしてグルメの街"と聞いた。夜な夜な美食にふける"赤い貴族"の姿をイメージしたが、すみません、アホでした。

 紀行という優しい題名に惑わされてはいけない。スパゲッティ・ミートソースの発祥の地といった人なつっこい入り口をくぐってそ の奥に広がるのは強烈なるボローニャ精神。この街は第二次大戦中、ナチスやファシストを追っ払って自力解放した歴史を持つが、戦後の歩みもいわば自力再 建。当時右派だった中央政府にマーシャル資金をあまり回してもらえず、街の誇る精密機械も買い渋られ、結果、販路を海外に求めた。伊藤園の日本茶ティー バッグを開発したのはボローニャの包装機械メーカーだったとは驚き。岡本理研も顧客とか。

 戦後アカと呼ばれ、頭に来たボローニャ市民の立てた「4つの誓い」が面白い。女性力の登用、歴史的建造物の保存と再利用、土地 の投機的売買の禁止、職人を育てて分社化すること。日本でも話題の地方分権とか地方再生の観点で読むと、打ちのめされる。ないもの探しよりあるもの探し。 おらが郷土のことはおら達で決める。この負けじ魂、いま必要かも。

表紙画像

ボローニャ紀行 (文春文庫)

著者:井上 ひさし

出版社:文藝春秋   価格:¥ 530

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