2010年4月14日水曜日

asahi shohyo 書評

岩佐美代子の眼(め)—古典はこんなにおもしろい [編]岩田ななつ

[掲載]2010年4月11日

  • [評者]酒井順子(エッセイスト)

■文学に打ち込んだ"最後の女房"

  岩佐美代子は、異色の経歴を持つ国文学者です。民法学者で男爵であった穂積重遠の娘として大正15年に生まれ、女子学習院で学ぶ間は、昭和天皇第一皇女照 宮(てるのみや)成子(しげこ)内親王のお相手役を務め、結婚後に独学で学問の道を歩んだ末に、大学教授となった方。本書は、そんな岩佐美代子のライフヒ ストリーを聞き書きしてまとめた作品です。

 彼女の人生は、平安・中世における女房のそれと重なります。成子内親王のお相手役を、大きなプレッシャーの中で13年間務めた 彼女は、「自分より身分が高い、心から敬愛できる方の前に出たら、自分は『無』になる」という感覚を、理解しています。その感覚は、女房文学のみならず、 日本の古典を読む上で、大きな役割を果たしているのではないでしょうか。

 紫式部が、夫の死後、中宮に女房として出仕したように、彼女もまた夫の死後、学問に打ち込み、働く女性となっていくのでした。 子育てや介護や看取(みと)りといった日常の中で、時には外の世界と戦いながらも、人生の支えとして文学に打ち込んできた彼女の姿は、"最後の女房"と言 うことができるのかもしれません。

表紙画像

岩佐美代子の眼—古典はこんなにおもしろい

著者:岩田 ななつ

出版社:笠間書院   価格:¥ 2,310

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