2010年4月6日火曜日

asahi shohyo 書評

血液型の科学 [著]藤田紘一郎

[掲載]週刊朝日2010年3月26日

  • [評者]谷本束

■人類はもともと全員O型だった

  日本人は血液型性格判断というやつが好きである。A型几帳面、O型大ざっぱ、B型マイペース。話のタネとしちゃ楽しいが、実のところ、そんなのはマユツバ だなと思っていた。何十億人といる人間の性格がたった4種類って、それヘンでしょう。実際、たいていの科学者は「血液型性格論はエセ科学」とハナもひっか けない。

 ところが本書によれば、科学的根拠がないのは科学者の言い分のほう。免疫学的にみれば、血液型によって性格がちがうことはありうる、というのだ。賛否両論の血液型性格論を検証している。

 ヒトはもともと全員O型だったという。農耕、遊牧が始まると、紀元前2万5千〜1万年にそれぞれの食物消化に適合する血液型として、初めてA型、B型が出現する(ついでに言えば、AB型の出現はほんの千年ほど前だ)。

 血液型を決めるのは血液型物質だが、この物質のせいで血液型によって体に合う食べ物、合わない食べ物が現れる。病気に対する免 疫力にもはっきり違いがあり、AB型がコレラに強いのに対し、O型は弱く、コレラ原発地のインドではO型が少なくなった。反対に梅毒が地方病だったアメリ カ大陸ではA、B、AB型が淘汰されて、先住民はほとんどO型だという。

 血液型と性格云々よりも、科学者すらご存じないらしい血液型そのものをめぐる科学的事実のほうが衝撃的に面白いのだが、それは ともかく血液型は食習慣や生活様式と密接に結びついたもので、脅威となる病気もそれぞれ違う。ならば、血液型が性格を規定しても不思議はないのでは、と論 じる。

 今のところ、血液型性格判断は怪しげな占いの域を出てないが、著者は仮に科学的根拠がなくても、度が過ぎなければ血液型占いを 楽しむのもいいではないか、と書く。目くじら立てなさんな、と。藤田センセのこういう鷹揚な、ゆるいところが好きなんだなあ。理屈に合わないものも含めて 人間。そういう感覚と科学的思考がうまく発酵して、いい味になっている。

表紙画像

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