2010年4月6日火曜日

asahi shohyo 書評

Googleの正体 [著]牧野武文

[掲載]週刊朝日2010年4月9日増大号

  • [評者]谷本束

■「管理者は一人」が怖い

  グーグルというのは奇妙な会社である。世界一の検索サイト、のはずだが、やってる事業がまあいろいろ。地球のあらゆる場所を衛星写真で見る、世界中の街角 を360度の映像で楽しむ、ネットで本が読める、と手当たり次第。昨年はとうとうパソコンのOSまで開発すると発表した。検索サイトの会社がOS?

 しかもサービスのほとんどがタダ、OSもタダ。それじゃ商売にならんだろと思うが、年間売り上げ2兆円。いったいどうなってる。

 そんなモヤモヤがこの本で一気に解消した。ネット方面が得意でない私としては大変うれしい。

 たった10年で巨大な独占企業に成長、目的も資金源もわからない。って、なんだか悪の組織みたいだな。もちろん、資金源はちゃ んとある。検索結果画面に表示される3行広告、「アドワーズ広告」だ。なぜこれが巨額の収益を稼ぎ出すのか、そのカラクリにあっと思わされる。OS開発も 市場拡大のための世界戦略の一手で、一見、野放図な活動の裏にクールな計算と合理的経営が浮かび上がる。

 その金を投入して目指すゴールが、「世界中の情報を整理し誰でもアクセスして使えるようにすること」。遠大な野望もさることな がら、ギョッとするのは膨大な個人情報の蓄積だ。利用履歴は趣味嗜好から生活パターンまで丸裸にする。私生活に踏み込んだ便利なサービスが可能になるのだ が、それを便利と思うか、気持ち悪いと思うか。

 動物園のパンダみたいなものかな。覗き見されるのは気に入らないが、食事から病気まで全部面倒みてくれて至れり尽くせり。いったんそこに入ってしまえば、大方の人は快適としか感じないだろう。それに良くも悪くも、この先そういう社会になるのは避けられない。

 問題はパンダになることではなく、管理者がグーグル一人ってこと。たった一つしかないものは脆弱だ。どんな組織も必ず変質する。彼らが利益のために情報操作を始めた時、健全な別の遺伝子をもつ組織がいない。そのほうが怖い。

表紙画像

Googleの正体 (マイコミ新書)

著者:牧野 武文

出版社:毎日コミュニケーションズ   価格:¥ 819

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