2010年4月6日火曜日

asahi shohyo 書評

時間はなぜ取り戻せないのか [著]橋元淳一郎

[掲載]週刊朝日2010年2月26日号

  • [評者]谷本束

■宇宙のカラクリのなんと奇妙なこと

  人生、時間をもどしてやり直したいことはいろいろあるが残念、それはできない。世界中どこでも、時間はひたすら過去から未来へ流れるものときまっている。 ところが、物理学者というのはどえらいことを言う。それを示す物理法則は実は一つもないし、過去とか未来とかいう区分さえ宇宙では意味をなさない、という のだ。

 では時間とはいったいどんなものなのか。古今の科学者・哲学者たちが考え続けてきたこの根源的テーマに、生命という視点から刺激的な考察を試みている。

 「生命は機械である」という生命分子機械論は根強いが、生命と機械の決定的違いは、生命は生き残るために敵から逃げる、よりよ い住環境を探すなど自ら進路を選択する主体的意思をもっていること。さらに相対性理論をひもといて、宇宙の時間はそもそも流れていない、生命の主体的意思 こそが過去から未来への時間の流れを最初に創り出したという。

 相対性理論から生命論、哲学までからんだ相当ややこしい話を小難しい数式一切なし、やさしい言葉とシンプルなグラフだけで大づ かみにわからせてしまう。そこが画期的にすごいのだが、物理学が説明する宇宙のカラクリのなんと奇妙なこと。体感覚からいえばそう簡単に納得できない。

 光は地上で観測すると秒速30万キロ、秒速10万キロで追いかけながら観測しても、やっぱり秒速30万キロ。物体が速く動けば動くほど、空間は縮み時間は遅れる。重力は体には感じない力だし、色は物理的には実在しない。

 なんでだ!? まあ、わかる、わからないより頭を蹴飛ばされるような感覚、これが楽しいのだが。

 SFでよくある光より速いワープ航法なんてありえない、と物理学者はよく言うが、光速以上で動くと質量がマイナスになっちゃうからなんですね。宇宙戦艦ヤマトはイスカンダルまで行けないし、「スター・トレック」のエンタープライズ号も銀河中、飛びすぎと。

 うーん。物理がわかると、SFの楽しみは少々減ります。泣。

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