2008年9月16日火曜日

asahi shohyo 書評

ルポ"正社員"の若者たち 就職氷河期世代を追う [著]小林美希

[掲載]2008年8月31日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■構造的に強制された過酷な労働

  それまで七十数%だった大卒就職率は90年代半ばから急速に低下し、00年には55%にまで落ち込んだ。本書が光を当てているのは、この就職氷河期に、首 尾よく正社員の地位を手に入れた大卒の若者たちである。取材の対象は、人材派遣会社、大手量販店、SE、金融、コンビニ、看護師など多岐にわたる。

 正社員とは名ばかりの彼らは、少しばかりの雇用の安定と引き換えに殺人的多忙を強いられ、その働き方におよそ見合わない賃金に あえぐ。彼らの経験は驚くほど似ている。その類似性が、過酷な労働が若者の過失に起因するのではなく構造的に強制されたものであることを教える。いま大卒 就職率は7割まで回復したが、そこには名前だけの正社員が含まれる。

 この本のスポットライトの外側に大量の若者たちがいる。安定したキャリアが見込める正真正銘の正社員。そして前著『ルポ正社員 になりたい』で光を当てた非正社員たち。著者が写しとったのはそうした全体像の中の部分に過ぎないけれども、生々しい、時代のスナップショットに仕上がっ ている。

 日本経済はいくぶん好転した。それは若者たちを搾取するシステムが整備された結果ではないのか。魂のこもった告発のルポである。

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