2008年9月17日水曜日

asahi shohyo 書評

フィンランド 豊かさのメソッド [著]堀内都喜子

[掲載]2008年9月14日

  • [評者]加藤出(エコノミスト)

■GDPでは計れない豊かさ

 本書によれば、平均的なフィンランドの人々は夕方4時になると仕事を終えサッサと家に帰る。土日は基本的に仕事をしない。社会人でも夏休みは4週間以上とっている。日本では「ゆとり教育」が問題になっているが、同国の学校の授業数は日本よりもはるかに少なく、塾もない。

 「フィンランドには『一生懸命』という言葉があるのだろうか」と思うほど、生活はのんびりしていると著者はいう。とはいえ、経 済協力開発機構(OECD)の生徒学習到達度調査の科学的リテラシーの分野で、同国は2回続いて世界一になった。世界経済フォーラムの国際競争力ランキン グも01年から4年連続で1位だ。不思議な国である。

 90年代前半に同国経済は危機に陥り、国民は大変な辛酸を舐(な)めた。「不況を乗り越えるために国民の再教育を奨励し、小さ な国ゆえに一人ひとりの能力が国の重要資産である、と位置付けた政策が今、義務教育、高等教育、成人教育で花を咲かせつつある」。教師の質を高めるための 採用方法も非常に興味深い。

 最近は手放しで同国を称賛する論調も見られるが、本書の著者は、生活体験に基づいた極めて自然な視点で論じている。問題点も含 めた等身大のフィンランドを描写している。それが本書の最大の魅力になっている。読み進むうちに、GDP(国内総生産)では計測できない「豊かさ」が同国 にはあることが伝わってくる。

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