緑のカーテン秘話 水やりは「セルフサービス」
4階建ての屋上まで届いた=2日、板橋区役所
外は強い日差しの中、緑のカーテンの内側では、柔らかな光を通していた=4日午後2時、板橋区役所
つる性植物で壁を覆って夏の暑さを和らげる「緑のカーテン」。板橋区の造園業の会社が、都内の区役所や小中学校などでこの「カーテン作り」を請け負って いる。限られた土地に密集して植物を育てる技術は、社長の森正さん(67)が、水やりの管理を植物自身にまかせる栽培方法を開発したのがきっかけだった。
板橋区役所本庁舎の南館の南側壁面には、ヘチマとキュウリ、ゴーヤ、朝顔の「カーテン」が、幅10メートルで4階建ての屋上まで到達し、16メートルを超えている。杉並区役所本庁では、現在7階に達し、成長を続けている。
見事な「カーテン」のカギとなるのが、「自動灌水(かんすい)システム」。仕組みは、ごくシンプル。植物が水を吸ってコンテナの中の水位が低くなると、 コンテナに設置した自動水やり器のウキが下がって、給水口を開き、自動的に給水する仕組み。常に水位が3センチ程度に保たれるようになっている。電気も使 わない。
このシステムの研究を森さんが始めたのは、鉄骨業を営んでいた30年以上前。「限られた土地で効率よく作物を育てる方法がないか」と、自宅兼工場の屋上にプランターを置き、本業の傍ら、実験を重ねた。
人間が経験や勘で決めてきた水やりを、発想を変えて、植物に任せてみてはと考えたのが転換点になった。実験では、植物は朝から夕方まで水を吸い続け、それ以後は休むことがわかった。
肥料の研究も続けた結果、通常、成長しても6〜8メートルのヘチマが2〜3倍に成長するようになった。植物が密集して生えることで、スダレ状でなくカーテンができるようになり、冷却効果が上がった。
03年に板橋区の製品技術大賞の環境賞を受賞したのを機に、都内の小中学校や官公庁、企業を中心に発注がくるようになり、この夏には50カ所で緑のカーテンが壁面を飾った。
板橋区役所でカーテンの内と外で温度測定をしたところ、戸外では平均で約9度、室内でも平均5度温度を下げる効果が確かめられた。昨夏は、キュウリ236本、ヘチマ60本、ゴーヤ46本がとれるという「副産物」も。一部は区立保育園の食材にした。
いまは緑のカーテンで実績をあげるが、森さんの視線は先にある。「このシステムを使えば、水が少しでもあるような人が生活できる場なら、乾燥地域 でも栽培ができる。単位面積の収穫量をあげる改良を重ね、ゆくゆくは途上国の食糧難の問題を解決したい」と話している。(岩田知久)
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