インターセックス [著]帚木蓬生
[掲載]2008年9月7日
- [評者]香山リカ(精神科医、立教大学現代心理学部教授)
■医療倫理、性…闇を覆うベールを剥がす
現役医師にして作家の著者が、現代社会の闇を覆うベールを、また剥(は)がした。
主人公は、若く美しい女性医師・秋野翔子。泌尿器科と婦人科をまたぐ領域「泌尿婦人科医」を名乗る彼女のもとには、生殖器など からは性別の判定がむずかしい「インターセックス」という問題を抱えた子どもやその家族がやって来る。外見や性的なアイデンティティーは「真中(まんな か)も許される」という信念を持つ翔子は、性別をどちらかに特定するような整形手術はなるべく避け、度重なる診察や手術で傷ついている子どもたちの心をケ アしたい、と考えて奔走する。
一方、医療界の風雲児と目される岸川は、自らの理想を実現したゴージャスな大病院を建て、そこで独自の思想に基づいた最新の生 殖医療や移植医療を行っている。インターセックスの患者に対しては積極的にどちらかの性別に特定する手術を施していた岸川だが、翔子との出会いでその考え が揺らぐ。岸川院長は医師としての技術と人間的な魅力をあわせ持った翔子をスカウトし、彼女もついにそれに応じる。理想主義の翔子は、はたして実業家院長 のもとでどんな医療を実践することになるのだろう。
このふたりのドラマ、そして日本でも毎年、千人弱は誕生しているというインターセックスの当事者たちの物語だけでも息つく間も ないほどの面白さなのだが、途中で翔子の親友の死についての謎が加わり、話の展開はぐっとサスペンス調に。さらに最後には、翔子と岸川、ふたりの卓越した 医療者自身のあっと驚く秘密が明らかにされる。
医療と倫理をめぐる問題。医者のモラルの問題。そしてインターセックスとはという問題と、人間の欲望や善悪の問題。あまりにも 盛り込まれているテーマが豊富すぎて焦点が絞りきれなくなりそうになるのが、玉にキズか。ある登場人物が最後に残した言葉、「無関心はとてつもない恥にな り、ついには罪になる」を胸に刻んで、ぜひともしっかり読み、エキサイトし、そして医療や人間、性について考えてみたい。
◇
ははきぎ・ほうせい 47年生まれ、作家・医師。『閉鎖病棟』『エンブリオ』など。
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