2008年9月16日火曜日

asahi shohyo 書評

老魔法使い—種村季弘遺稿翻訳集 [著]フリードリヒ・グラウザー

[掲載]2008年9月7日

  • [評者]奥泉光(作家、近畿大学教授)

■目利きが晩年に選んだ翻訳

  『ダ・ヴィンチ・コード』のヒットが記憶に新しいが、西洋稗史(はいし)を素材にした物語は日本でも人気が高いわけで、この分野の我が国第一人者といった ら、渋沢龍彦と並んで、04年に亡くなった種村季弘の名前をあげぬわけにはいかないだろう。オカルトとも隣接する稗史は、いわば現代の異界であり、種村季 弘は『怪物のユートピア』をはじめとする評論やマゾッホなどの翻訳紹介の仕事を通じて、(オカルトにのめりこむがごとき)野暮(やぼ)から軽々と逃れ、異 界で粋に遊ぶ楽しさを多くの読者に教えてくれた。

 本書はその種村の遺稿翻訳集である。フリードリヒ・グラウザーは、1930年代を中心に活動したドイツ語圏の作家で、晩年の種 村が翻訳に力を入れた作家でもある。『外人部隊』『砂漠の千里眼』など数冊がすでに出版されている。『老魔法使い』は、シュトゥーダーなる刑事を主役に据 えた短編と中編からなる探偵小説集であるが、ことミステリーについてはウルサクならざるをえない21世紀日本に棲息(せいそく)する者の目からすると、い ささか退屈の感を否めない。むろん小説の退屈さは渋さと裏腹であり、数々の埋もれた「宝」を発掘してきた目利きの仕事だと思えば、また違う感想も生まれそ うである。もちろんグラウザーの評価はこれからだ。

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老魔法使い—種村季弘遺稿翻訳集

著者:フリードリヒ・グラウザー

出版社:国書刊行会   価格:¥ 3,990

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ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

著者:ダン・ブラウン

出版社:角川書店   価格:¥ 580

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ダ・ヴィンチ・コード(中) (角川文庫)

著者:ダン・ブラウン

出版社:角川書店   価格:¥ 580

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ダ・ヴィンチ・コード(下) (角川文庫)

著者:ダン・ブラウン

出版社:角川書店   価格:¥ 580

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外人部隊 (文学の冒険シリーズ)

著者:フリードリヒ グラウザー

出版社:国書刊行会   価格:¥ 3,780

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砂漠の千里眼

著者:フリードリヒ グラウザー

出版社:作品社   価格:¥ 2,415

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