2008年9月2日火曜日

asahi shohyo 書評

フランス・レジスタンス史 [著]J=F・ミュラシオル

[掲載]週刊朝日2008年9月5日

  • [評者]海野弘

■フランスはまだレジスタンスの歴史を追いつづけている

 新書としては、ヴォリュームも内容もヘヴィー級だ。息を切らして読んでいくと、歴史の重さがずしりと感じられる。

〈レジスタンス〉ということばが若者をとらえた時代があった。私たちもフランス映画に胸をかきたてられた。ルネ・クレマン「鉄路の闘い」、アラン・レネ「夜と霧」などが浮かんでくる。

 第二次世界大戦の時、ドイツに占領されたフランスの対独抵抗運動は1950年ごろ日本に紹介され、〈レジスタンス〉はほとんど日本語として通用するほどであった。

 この本は、フランス・レジスタンスの詳細な歴史である。戦後、解放の喜びの中で、〈レジスタンス〉は美化され、伝説化された。 しかしその後、きれいごとではなかったとして、伝説が批判され、解体された。そしてあらためて、なにがあったかを、できるだけ客観的に語ろうとしている。

 いきなり新しい視点で事実がたどられていくので、予備知識がないとわかりにくいかもしれない。私は海原峻編『レジスタン ス』(「ドキュメント現代史」8 平凡社 1973)を参考にしながら読んだ。レジスタンス伝説の解体の中でまとめられた本と、今の時代の『フランス・レ ジスタンス史』とを比較して見ることができる。

 戦後、60年以上たっているが、フランスはまだ〈レジスタンス〉の歴史を追いつづけている。

 最近、占領期にナチのゲシュタポとして、レジスタンスの闘士を虐殺したクラウス・バルビーのドキュメンタリー映画を見る機会があった。戦争犯罪の追及がまだ終わっていないのだ。

〈レジスタンス〉において、まったく思想や立場がちがった人々が一瞬協力して戦い、戦後の新しい世界が幻影のように見えた。それは、19世紀の普仏戦争で占領されたパリを解放した〈パリ・コミューン〉のような夢であった。

 しかし、パリに凱旋したドゴールは、戦前の共和国の復活を宣言した。「パリにはコミューンは現われなかった」(本書)という結論はちょっと淋しい。

表紙画像

フランス・レジスタンス史

著者:J.F.ミュラシオル

出版社:白水社   価格:¥ 1,103

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