欲望の美術史 [著]宮下規久朗
[文]青木るえか [掲載]2013年06月28日
■絵の裏側にある人間関係を楽しむ
絵は見りゃわかる。絵なんだから。といっても、大きさに限 りのあるキャンバス(なり画仙紙なり壁なり)にすべてを描き尽くすことはできない。宗教画など、無理やり「すべて描いちゃってる」ためにワケわからなく なってることもあり、そういうものの「絵解き」をした本です。「これはこういうことを描こうとしているのですよ」と教わって納得したり、思いもかけぬ意味 に感動したり、逆に「案外深みがないな」とガックリしたり、とにかく楽しめる。
絵画には、そのような「見てもらうことを目的に描いた主題が各種 理由でわかってもらえない」ことがよくある。それと同時に「描いたつもりはないことがいろいろな調べにより暴かれる」というのもある。本書のタイトルは 『欲望の美術史』となっていて、絵画の裏側にある人間関係や現象などを教えてくれる本であった。"見えないものを暴く"ほうである。美術や芸術よりも、そ れを創造した人に光を当てる。
ぜんぶで二十八個のテーマに沿って、絵や彫刻とその裏側にあるものを紹介している。すいすい読めて、知識も得られ て、おまけにそれが裏話的なものなので頭に入りやすく覚えやすく、読み終わった時に「ああ、本を読んでトクをした」という気持ちになれます。ダレソレのあ の絵のモデルは作者の不倫の恋人だった、とか。老女がキリストの絵を勝手に修復と称して上描きして、猿のような顔になっちゃったスペインの事件などから、 人々の「名画や権威的な画像を茶化したいという欲望」に目を移す。そしてマネやピカソの有名な絵の「元ネタ」を教えてくれた上に、そういうパロディっぽい 絵画を描いた作者の隠れた感情を解説してくれる。
いろいろな絵とその裏側について書いてある中で、私は「風景画は政治的なものであり、愛国心と結びついている」というのが、なんだかハッとさせられた。権力者の肖像画ってのも政治的なものだが、どうも私には風景画のほうがコワイのである。
この記事に関する関連書籍
著者:宮下規久朗/ 出版社:光文社/ 価格:¥966/ 発売時期: 2013年05月
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