立身出世と下半身―男子学生の性的身体の管理の歴史 [著]澁谷知美
[評者]三浦しをん(作家) [掲載]2013年06月09日 [ジャンル]社会
■「性的充溢=男らしさ」の矛盾
「1890〜1940年代において、男子学生の性的身体は、教育者や医者らによって、どのように管理されたのか」を、資料分析や当事者へのアンケートを通して論考した本。
男子学生たちは、「性的なことにかまけている場合ではない」と有形無形の圧力を受けてきた。なぜかまけてはいけないかというと、勉学がおろそかになり、国家に有用な人材に育たないからだ。恋や性的行いは、立身出世を果たしてから思う存分すればいいのである。
そんな無茶(むちゃ)な。しかし大人は(女遊びしている自身を棚に上げ)、「花柳界に足を踏み入れるな」「自慰をするな」と学生たちに要求する。しまいに は、高等学校などの入試において、身体測定とともに性病検査(通称「M検」)が行われる。全裸の男子学生の性器に、医者などがじかに触れて、性病にかかっ ていないかチェックするのだ。余計なお世話感満載!
M検体験者へのアンケート結果、当時の受験雑誌に寄せられたM検への不安の声や性的な悩み相 談が非常に興味深い。著者の丁寧な分析によって、「男らしさ」という幻想(と言っていいだろう)のもと、無視され抑圧されつづけてきた、男性の(というか 人間の)繊細で言語化できない領域の存在が浮かびあがる。
性的エネルギーの充溢(じゅういつ)は「男らしい」こととされるのに、学生に対しての みは、その「男らしさ」を封印するよう要求する。男性の性的身体は、常に矛盾にさらされてきた。本書は、その事実を明らかにした労作だ。「性的充溢=男ら しさ」という幻想を都合よく押しつけられ、野獣めいた性欲あふれる生き物であるかのように扱われることに(例:「男はストレスを性的行為で解消する必要が ある」といった無礼千万な言説)、男性はそろそろ「否!」の声を上げていいころだ。その際の理論武装にも最適な一冊。
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洛北出版・2730円/しぶや・ともみ 72年生まれ。東京経済大准教授(教育社会学、社会学)。『日本の童貞』など。
この記事に関する関連書籍
著者:澁谷知美/ 出版社:洛北出版/ 価格:¥2,730/ 発売時期: 2013年03月
著者:渋谷知美/ 出版社:文藝春秋/ 価格:¥798/ 発売時期: 2003年05月
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