米国で注目、ジョン万次郎 絵本や児童書、続々出版
[文]浦島千佳 [掲載]2013年06月17日
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幕末から明治にかけて通訳などとして活躍し、日本の開国と近代化に貢献したジョン万次郎(本名・中浜万次郎、1827〜98)の生涯を描いた絵本 や児童書が、米国で相次ぎ出版されている。ここ10年で少なくとも5冊が出版され、中には優れた児童文学に贈られるニューベリー賞オナーを受賞した作品 も。なぜいま、ジョン万次郎が米国で注目されるのだろうか。
ジョン万次郎は高知県土佐清水市出身で、14歳の時に、乗っていた漁船が嵐で遭難。 米国の捕鯨船に助けられると米国本土に渡り、同船のホイットフィールド船長らと友情を育みながら、英語や航海術を習得。約10年後に帰国し、幕府の通訳、 教育者として活躍し、日米関係の発展に寄与した。
そんな生涯を米ニューヨークの作家エミリー・アーノルド・マッカリーさん(73)は、絵本 「ジョン万次郎—二つのふるさとをあいした少年—」(星湖舎)にまとめ、2008年に出版した。同書は09年にバンクストリート教育大が毎年選ぶ良書の一 つに選ばれ、12年には翻訳版が日本に「逆輸入」された。
マッカリーさんは、早稲田大に留学経験のある長男ナットさん(45)から7年ほど前にジョン万次郎について聞いた。「彼の勇敢さや経験から学ぼうとする姿勢、習得した知識を自国のために役立てようとする姿に最も心がひかれました」とマッカリーさん。
「今日、私たちはインターネットなどを通じて『世界とつながっている』と思いがちです。でもジョン万次郎は命を賭けて冒険し、想像もしなかったような経験を実際にした。そこが人々の関心を集めるのではないでしょうか」
ミネソタ州ダルースの作家マーギー・プロイスさん(58)は、10年に「ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂」(集英社)を出版した。同書は11年にニューベリー賞オナーを受賞し、日本語や中国語、イタリア語にも翻訳されている。
プロイスさんは、別の絵本を執筆するための調べものをしていた際、偶然ジョン万次郎を知った。児童書のいい題材だと感じた最初の理由はジョン万次郎が経験 した数々の冒険だったが、一方でジョン万次郎とホイットフィールド船長が言語や文化の違いを乗り越えて友情を育んだ事実にも心を動かされたという。
プロイスさんがジョン万次郎の本を書いていた時期、米国はイラク戦争に突入していた。米国内でもイスラム教徒やモスクが襲撃されたというニュースを聞く度に「恥じ入り、絶望していた」と振り返る。
「日米間に信頼関係がまだなかった時代に、違いを乗り越えた人物が存在したという事実は、私たちの"希望"になると感じました。それがこの本を書きたいと思った理由の一つでもあります」
■専門家「多文化教育の流れ」
なぜジョン万次郎の冒険は、米国で関心を呼ぶのか。高知県立大の山口善成准教授(39)=米文学=は、「トム・ソーヤーの冒険」や「ハックルベリー・フィ ンの冒険」を例に挙げ、「どの国にも少年の成長を描いた作品はあるが、特に米国では一つのジャンルとして続いており、ジョン万次郎の物語が好まれる素地が ある」と指摘する。
その上で、「多民族国家の米国は、多文化教育に力を入れてきた。近年、米国の大学ではアジアや南米からの移民が書いた文学作 品が授業で採り上げられることが増えており、米国に渡った最初の日本人と言われているジョン万次郎の書籍が米国で読まれるのもそうした流れの一つなので は」と分析する。
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