理論研究から歴史の教訓を 我部政明さんが選ぶ本
[文]我部政明(琉球大学教授・国際政治学) [掲載]2013年06月23日
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■沖縄の戦後
同時代の空気を共有した者の間では、すぐに了解できる表現がある。しかし、当時の空気を共有していない者には理解できない。そのため、その後に起きた事実から遡(さかのぼ)ってかつて意味したところを解釈しようとする。
沖縄返還交渉を進めた当時の佐藤栄作首相は「本土並み」を返還の条件とした。
後の時代の人は「本土並み」を、日本本土並みの「面積」、つまり面積比で占める基地がほぼ同じとなることだ、と理解する。国土面積の0・6%の沖縄に米軍専用基地の74%が存在する現状こそ、「本土並み」公約が達成されていない、とみる。
もうひとつの「本土並み」は、沖縄返還後の米軍基地の「使用」を米国本土にある基地と同様に自由に使えることだ、という理解である。沖縄返還後も、米軍の自由使用が行われている現状から生まれた解釈だ。ある研究者の講義を受けた学生の答案にあったという。
実際に日本政府はかなりの自由を米軍に認めた。後者の理解は、むしろ現実を突く解釈だ。後知恵による理解が、より基本的な構造を知る一例だろう。
これは、結果が原因から生まれるという理解の方法で、出来事がなぜ起きたかを理解するときに有効だ。今後を予測するときにも役立つ思考方法である。
■戦場から地続き
公文書公開が進んできた結果、沖縄の戦後の詳細が分かるようになってきた。その研究のひとつに、鳥山淳『沖縄/基地社会の起源と相克』がある。沖縄の戦後 は「戦場から地続き」で始まり、今なお続く。当初の10年で自生的に生まれたのが「自治と復興」を希求する政治運動の潮流だったという。その「潮流」を戦 後沖縄の織りなす基本の糸だと位置づける。そこには、沖縄「社会」が合理的な判断の主体であるとの前提がある。
なぜ沖縄に米軍基地が建設された のか。米公文書を基に理論的説明を試みたのが、川名晋史『基地の政治学』だ。目標と資源制約、同盟国間の脅威と基地負担、見返りで成立する取引(契約)か ら、米国の海外基地システムが構築されてきた、と説明する。著者は、政府は合理的に行動するとの前提に立つ。たとえ非合理的にみえる行動でも、政府を意思 のある主体として描く。海外基地の中軸である沖縄を、合理的な判断ができる主体とは扱わない。
現在の視点から過去を整理して、理解することで研究成果を上げることは心強く思う。さらに、合理性の陥穽(かんせい)を越えて歴史の教訓へと押し上げてほしい。
■現実変える力は
沖縄返還に際して米国が日本の施政権下へ返した区域は、尖閣諸島を含む沖縄県全体であった。尖閣の領有について、米国は中立の立場をとると、返還のときに 決めた。私たちは今、それは米国が対日政策、対中(台湾)政策における優位な立場を維持するためだったことを知る。そこからの教訓をリアルに描く豊下楢彦 『「尖閣問題」とは何か』は秀逸である。
沖縄戦から今日まで、そして将来をも、沖縄に米軍基地を集中・存続させている日本の政治がある。この現 実を変えるパワーを沖縄の人々は持っているのか。あるとすれば何かを、問い続けるリアリスト宮里政玄の『沖縄パワーとは何か』(私家版。沖縄対外問題研究 会=電話098・895・8215)が出た。
1983年から2008年に書かれた文章だが、いずれも現在も通用する問題提起である。
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がべ・まさあき 琉球大学教授(国際政治学) 55年生まれ。著書『沖縄返還とは何だったのか』、共編著『〈沖縄〉基地問題を知る事典』など。
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