2013年6月6日木曜日

asahi shohyo 書評

水俣な人 水俣病を支援した人びとの軌跡 塩田武史さん

[文]星賀亨弘  [掲載]2013年06月02日

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塩田武史さん=星賀亨弘撮影

表紙画像 著者:塩田武史  出版社:未来社 価格:¥ 2,940

■出会ってしまったという責任

 海辺で、水俣病の少女と向き合う作家石牟礼道子さん、患者と同じように口を開け、のどをのぞきこむ医師原田正純さん——。水俣病患者の支援者とその家族計62人を写真と短い文章で紹介する。「水俣で暮らしたのは15年間。居心地がよかった。ふるさとみたいです」
 水俣病と関わる理由を「出会ってしまったという責任」と語る人たちがいる。見過ごされ被害を広げた公害病を、見過ごせず立ち止まった人たち。塩田さんもその一人だろう。
 1945年高松市生まれ。働きながら法政大に通っていた67年、胎児性患者のベタ記事を頼りに患者宅を訪れた。玄関まで聞こえる「クー、グワー」といううなり声、光のない部屋に寝転ぶ患者。頭が真っ白になり、話もろくにできず立ち去った。
  東京に戻ると、誰も水俣病を知らない日常があった。覚悟を決め翌年再び訪れた。暗い部屋で押したスローシャッター。1枚だけ鮮明に写っていた。見えない瞳 を大きく見開く少年の姿だ。「この1枚がなかったら、写真家になっていなかった。患者を撮るのはしんどい。でも、残さなければと……」
 70年から水俣に移り住み、患者や家族を撮った。そのころまわりには支援者が集まってきていた。接してみると、みんな穏やかでほんのり温かい。水俣の風景や暮らす人々にも重なった。心の中で「水俣な人」と呼び、彼らの姿も撮りためた。
 ようやく時間ができ、本にするため改めて連絡をとった。現在暮らす熊本市のご近所もいれば、遠く離れ40年ぶりの再会もあった。「みんないい年の取り方をしていた。違う場所にいても、やっぱり水俣な人たちでした」
    ◇
 朝未来社・2940円

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水俣な人 水俣病を支援した人びとの軌跡

著者:塩田武史/ 出版社:未来社/ 価格:¥2,940/ 発売時期: 2013年04月

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