雑談力が上がる話し方 30秒でうちとける会話のルール [著]斎藤孝
[掲載]2013年05月26日
■「情報」でなく「情緒」の交換
精神科医は対話が治療道具だが、それでも私は雑談が苦手だ。タクシーや床屋では雑談がおそろしい。そんな私にも朗報が。なんと、本書を読めば雑談が自由自在になるという。
著者は教育学者だけあって、雑談スキルをいかに習得するか、実に優しく導いてくれる。曰(いわ)く、雑談には結論もオチもいらない。あいさつ+αでいい。 返しは一問二答以上で。オバちゃんを相手に練習しよう。「ながら雑談」の薦め、などなど。なるほど、これなら私にもできそうだ。読んですぐに誰かに試した くなるあたり、そそのかし上手な本でもある。
「雑談力」とは何だろうか。著者に代わって、本書の内容を一言で要約してみよう。それは、「無意味 な会話をいつまでも続けられる能力」のことだ。弓の名人に弓が不要であるように(「不射之射」)、雑談名人は話題すら必要としない。女子高校生の会話など が典型だ。親密さを確かめあうための、情報量ゼロの雑談。私はこれを「毛づくろい的会話」と呼んで珍重し憧れている。
話題はどうでもいいかわり に、雑談の目標はけっこう高度だ。空気を読む、好意を伝える、上手にほめる、などなど。要するに、雑談が伝達するのは、情報ではなく情緒なのである。相手 の情緒をうまくキャッチし、肯定的な情緒とともに返球すること。そう、雑談の神髄は、こうした非言語的コミュニケーションにこそある。うーん、やっぱり難 しい。
その高度な雑談スキルが「生きる力」そのものだ、とまで著者は言う。ここで私は、ふと首を傾(かし)げてしまう。昨今のコミュニケーション偏重主義が、これでまた加速したりはしないだろうか。どうやら生きる力の弱い私は、うまく乗せられて場数を踏むしかなさそうだ。
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ダイヤモンド社・1500円=19刷33万部
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著者:齋藤孝/ 出版社:ダイヤモンド社/ 価格:¥1,501/ 発売時期: 2010年04月
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