2011年12月23日金曜日

khnokuniya shohyo 書評

2011年12月22日

『東京ガールズコレクションの経済学』山田桂子(中公新書ラクレ)

東京ガールズコレクションの経済学 →bookwebで購入

「ガールズマーケットの誕生」



 本書のタイトルを見て評者が抱いた印象は、「東京ガールズコレクション」(以下、TGC)の市場動向やトレンドを解説したものだろうというものだった。 また、こういったブームを扱った本には、そのブームの内側にいる人がPRを意図して書いたものが多い。しかし、本書はTGCをブームとしてとらえつつも、 一定の距離をとったものだ。そして、その狙いももっと大きなところにある。TGCという現象を事例としながら、「ガールズマーケット」そのものの成立とそ の拡大をさまざまな視点からとらえようとする、実に分析的な本といえる。


 TGCは2005年8月に始まったファッションイベントで、入場者数で見ると06年に2万人を超えその後も増加傾向にある。第1章「一大イベントに成長 した東京ガールズコレクション」で、著者はTGCが「リアルクローズ」(実際に着ることができる現実性の高い服)という言葉を定着させたという。

 だが評者がそれ以上に注目したのは、それが従来の年齢区分とは異なる「ガールズ」というくくり方がなされるようになる嚆矢と位置付けられる点だ(「ガー ルズ」は明確には定義されていないが、年齢でいえば10代からF1層、つまり34歳くらいまでという)。つまり、それまで女性を年齢に応じて細分化してい たファッション業界で、10代からアラサーまでを含む新たな市場、「ガールズマーケット」が誕生する過程に大きな役割を果たしたのだ。そして、その背景に はエイジレスを謳う20代(30代にも拡大しているだろう)の需要があるという。

 第2章「ガールズイベントの戦略は何か新しいのか?」、第3章「どうしてガールズイベントは人気があるのか?」では、TGCの新奇性やその人気の理由が 消費行動モデルや、メディア戦略、タイアップをめぐるケーススタディなどから説明されている。また、第6章「人気の高いガールズブランド」はガールズイベ ントでのそれぞれのブランドの戦略に焦点を当てたものだ。

 評者が特に関心を持ったのは、第4章「市場の主役はギャルからガールズへ」と第5章「ファッション雑誌で見るガールズマーケット」だ。第4章での「ギャ ル」の成立過程をめぐる説明は評者には首肯できない部分もあったが、ギャルからガールズへのマーケットの変化をめぐる説明と、両者の重複や分布をまとめた 図表2「ヤングマーケット分類」(117頁)や図表5「ガールズ雑誌のポジショニングマップ」(142頁)は、整理されていてわかりやすい。

 著者は必ずしも明示的には述べていないが、著者が多用する図式は本書がテーマにするマーケティングに限らず広く使えるものだ。また、そこからはさまざまな興味関心が沸いてくる。

 図表5をもとに述べられる『Can Cam』から『sweet』への人気雑誌の変遷は、ある部分で(例えば、モテ志向から自分志向への変化など)ガールズ文化の大きな変容を示しているだろ う。また、第6章の図表8「ガールズイベント出場ブランドのポジショニングマップ」(171頁)での「ドメスティック/インターナショナル」、「ポピュ ラー/エッジィ」という軸についていえば、そのなかでの地域差やポピュラーさやエッジさの差異などを詳しく見ていくのも面白いだろう。

 ともすればタイトルの「経済学」が読者層を限定しているかもしれないが、ポピュラー文化論やジェンダー論、メディア論などと隣接するものとして広く読まれていい本だ。


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