2011年12月2日金曜日

asahi shohyo 書評

鷹匠の技とこころ—鷹狩文化と諏訪流放鷹術 [著]大塚紀子

[評者]楊逸(作家)  [掲載]2011年11月20日   [ジャンル]科学・生物 

表紙画像 著者:大塚紀子  出版社:白水社 価格:¥ 2,310

■数千年も生き残った伝統猟法

 凜々(りり)しい姿の鷹(たか)を拳に据えた凜々しい女性鷹匠(著者)。冒頭の写真に「一目ぼれ」して一気に読み終わった。
 神話の時代から猛禽(もうきん)は強さや幸運の象徴だった。神武天皇の弓に金のトビがとまり、勝利をもたらしたという伝説もある。鷹狩は平安時代、貴族文化として定着し、戦国時代になると様々な流派が生まれ、無類の鷹狩好きな徳川家康によって大きく発展した。
 江戸幕府崩壊後、鷹匠の大半が職を失った。明治政府は宮内省の管轄で、「古技保存の名目で鷹狩を含めた伝統猟法の保存に努めるようになった」という。
  以前、鵜飼(うか)いを見学したことがあるが、鵜匠(うしょう)は現在でも宮内庁が保存する「伝統猟法」の一つだ。現代になって、国内外から多くの観光客 が訪れる都立浜離宮恩賜(おんし)庭園で、毎年新春に「放鷹実演」を披露しているとのこと。文化伝承における日本の努力に感心するばかりである。
 中国ではかつて、チベットとモンゴルの間の地域で遊牧民族を中心とした鷹信仰があった。人が死ぬと荒れ地に「天葬」し、鷹に食べられることで天国に行けると固く信じられていた。
  鷹は、日本では「神」だけでなく、四仏の化身であるとも考えられていたという。鷹の調教時、人間の血や、人間の捕るもののケガレやそのほかの不浄を避ける ために、鷹匠は必ずいぶした鹿革の手袋をつけなければならない。目を合わせることも憚(おそ)れ、全体を眺めるように鷹のことを「よく見る」のだ。
 一方の中国は、鷹匠がまばたきもせず、鷹と三日三晩ひたすらにらみ合ってギブアップさせることで、人間への服従を認めさせるという調教法が主であるらしい。
 今、環境汚染や食糧難などで、鷹とその生きる世界が脅かされているという。世界各地で数千年も生き残った「鷹狩」文化、その復興を願いながら、この文を書き終えた。
    ◇
 白水社・2310円/おおつか・のりこ 71年生まれ。大学卒論を契機に興味を持ち、認定試験で諏訪流鷹匠に合格。



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