2012年8月29日水曜日

asahi shohyo 書評

柳田國男の恋 [著]岡谷公二

[文]曽根賢  [掲載]2012年08月31日

表紙画像 著者:岡谷公二  出版社:平凡社 価格:¥ 1,890

 著者はゴーギャン、アンリ・ルソーら熱帯に魅せられた画家の研究者であり、柳田國男の「青春」の研究者だ。今年は國男没後50年。
 本書 は彼の青春を「曝露」する──『遠野物語』の國男は、本邦民俗学の始祖となる以前、藤村も一目おく「恋の詩人」だった。その初恋の相手は、父母のいない、 肺病を患った美少女いね子。白皙の美貌帝大生國男は、いね子の家の周りを徘徊し、門前に立ち尽くしては「我が恋成らずば我死なん」と絶唱する。それに対し 醜男花袋は、友人の姿に我が妄想を仮託して「柳田物」恋愛小説を書きまくる。しかし國男の初恋は美人薄命(いね子享年18)の悲恋に終わる。途端「僕はも う覚めた。恋歌を作つたツて何になる! その暇があるなら農政学を一頁でも読む方が好い」とランボーばりに詩人の心臓を犬に喰わすと「大人=公人=民俗学 確立」の道を猛進した。だがどっこい詩人の心臓は犬も喰わないわけで、國男の心臓は引き裂かれたまま鼓動する──彼もまた、初恋に人生をこじらせてきた野 郎の1人だったのだ。

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著者:岡谷公二/ 出版社:平凡社/ 価格:¥1,890/ 発売時期: 2012年06月

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