自分を探さない旅　吉田友和さん

[文]加来由子　 [掲載]2012年08月05日

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吉田友和さん（３５歳）＝品田裕美撮影

■会社を辞めて"卒業旅行"へ
　
　出版社に勤めながら休みになると旅に出て、『仕事が忙しいあなたのための週末海外！』など旅の本を書いてきた。そんな生活を続けるうちに〈旅への情念は天井知らずに膨らみ続け〉、ついには旅行作家として生計を立てようと決め、会社を辞める。そして"卒業旅行"に出かける。
　〈自分探しの旅？　まさか。今のところは探したい願望なんてない。そもそも、三四歳なのである〉
　旅行記としても面白いが、３０代の会社員が人生を方向転換するまでの思いや、東京での静かな暮らしぶりも印象に残る。
　放送局のディレクターとシンガポールロケに出かけ、彼の執念深い仕事ぶりに精神を摩耗させられながらも最後は魅了されてしまったこと。インドで昔の旅仲間に会い、瓶ビールを飲みながら"語りモード"になった夜のこと。昼間、自宅近くの公園のベンチに腰掛けて食べた３９０円のから揚げ弁当の味。アパートへ戻る道すがら、めったに見られない美しい夕景に出くわしたこと……。
　旅先のことも日本での日常もフラットに記されていて、同じ空の下での個々のいとなみがいとおしく思えてくる。「旅に出るようになってから、いつもの暮らしの中にも新鮮に思えることがゴロゴロ転がっていることに気づきました」
　学生時代は旅とは無縁だったが、旅好きの妻の影響で、結婚していきなり世界一周したことで旅にはまる。以来、いろんなことを「体験したい」と旅に出る。〈メディアなどで情報が氾濫（はんらん）し、わざわざ現地へ行かずとも満足してしまう人が増えている現状とは真逆（まぎゃく）の思考なのだ〉。タイトルにこめた思いは、最後に明かされる。
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　平凡社・１６８０円