古事記 いのちと勇気の湧く神話 [著]大塚ひかり
[文]青木るえか [掲載]2012年08月10日
■気持ちよくてやめられません
自分がとんだ物知らずだったことが分かった。神武天皇ってイザナギとイ ザナミの子供だと思ってたよ。「古典を分かりやすく解説」したとされる本は多いが、分かりやすくても読んだそばから忘れる本ばかりだ。古事記の解説書は けっこう読んだのに、神武天皇が誰の子かも分かってない有り様。
大塚ひかりの本は、源氏物語でも、「有名なエピソード以外」の、しかしこれを見 落としては紫式部が言いたかったことがさっぱり分からなくなるという重要な部分を、面白おかしく(これ重要)教えてくれる。「人間の身もふたもない下世話 さ」を愛する者として、「ありがとう」と言いたくなる。面白く読むと、ちゃんと覚えるんですね、きちんとした内容を。古文の教科書はこうあるべきだ。
古事記って、読みどころ満載なのだな。とにかく、うんこ話の多いこと。子供が「うんこ」「うんこ」と言いたがるのは太古の昔からの日本人の血か、いや人類 すべての血か。そして性を暗示させる貝の話も多い。貝話があとからあとから出てきて、海辺で焼きハマグリのぷりぷりしたやつをがぶりと噛んで、熱い汁が じゅんと口中に充満するような、そんな快感がある。うんこ話も好きだけれど、●んこ話も気持ちよくてやめられません。
もちろんそんなシモ話だけ ではない。聖書を読んで「外国の神様はかっこいいなあ」と思っていたが、日本の神様もなかなかやるのだ。いきなり手が氷柱(つらら)となり剣の刃となると か、有名な「黄泉の国で腐ったイザナミ」にしたって、体のあらゆるところに(●んこにも)雷が棲みついていたというのも、なかなかにかっこいい。
情けない話も満載である。「はっきりしたことは言わぬが吉」とかいうことが古事記の昔から文章になって残ってるのは物悲しい。いい大人がすぐ泣くし。「泣 くことで加害者は被害者に転じる」という流れは、昨今の日本を予見してるようで心が寒い。「自分の国などたいしたもんじゃない」と自覚するためにも古事記 はいい本です。
この記事に関する関連書籍
著者:大塚ひかり/ 出版社:中央公論新社/ 価格:¥861/ 発売時期: 2012年07月
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