2012年8月8日水曜日

asahi shohyo 書評

脳を創る読書 [著]酒井邦嘉

[文]長薗安浩   [掲載]2012年08月10日

表紙画像 著者:酒井邦嘉  出版社:実業之日本社 価格:¥ 1,260

■読書量と想像力の関係を説く

 この本のタイトルにある「脳を創(つく)る読書」とは、いったいいかなるものなのか。言語脳科学の第一人者である著者、酒井邦嘉はまず、活字を読む行為をこう定義する。
〈「読む」ということは、単に視覚的にそれを脳に入力するというのではなく、足りない情報を想像力で補い、曖昧なところを解決しながら「自分の言葉」に置き換えていくプロセスなのだ〉
  活字は音声や映像に比べて圧倒的に情報量が少ないため、どうしても読者の想像力が必要となる。音声や映像は、受動的に聞いたり見たりしていればそれでやり 過ごせるが、活字の場合は、前にもどったり、同じ文章を何度も読み返したりしながら知らない言葉や文意を自分なりに考え、想像せざるを得ない。
 しかし、このように読書を通して想像力を培うことができれば、入力情報の不足分を「自分の言葉」で埋めていけるようになり、言語能力も同時に鍛えられると酒井は説く。したがって、読書量が多ければ多いほど、思考力も確かなものになる。
  酒井がタイトルに込めた意図はここにあるのだが、逆に読書量が少なければ、想像力で補う機会が十分に得られないために、読んでも聞いても深い理解ができな くなる。大学教授として日頃から学生たちと接している酒井は、論文原稿の問題点を指摘してもまったく良くならない大学院生の例をあげ、〈自分の文章を客観 的に読めないことが一因で、他人の書いた文章を読むという経験が不足していた結果〉と分析している。
 だからこそ、酒井は小学生ぐらいから読書習 慣を身につける重要性を強調し、紙の本だけでなく、導入が進む電子教科書の利点と課題にも言及する。検索すれば、自分で考えず、先生にも相談せずにすぐ答 えがわかってしまう時代に、どうやって子どもたちの想像力を鍛えるか。使い方の問題とはいえ、この本で酒井が投じた問いはもっと議論されていい難題であ る。
    ◇
2万部

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著者:酒井邦嘉/ 出版社:実業之日本社/ 価格:¥1,260/ 発売時期: 2011年12月

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