2012年8月2日木曜日

asahi shohyo 書評

穂村弘の感受性を、山田航が分析

[掲載]2012年07月31日

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穂村弘(左)と山田航

表紙画像 著者:穂村弘、山田航  出版社:新潮社 価格:¥ 1,680

 歌人穂村弘(50)の1986年のデビューから近作まで120首を解説した『世界中が夕焼け—穂村弘の短歌の秘密』(新潮社)がでた。21歳年下 の新鋭歌人、山田航(わたる)が個人ブログに連載した短歌評と、それに応えて穂村が創作の過程や真意などを明かした異色の本だ。歌の解釈を超えて、ゼロ年 代以降の世界の変容が浮かび上がる。
 山田は大学生の時、初めて穂村の歌集を読んで衝撃を受けた。「少女マンガのように情景がキラキラしてい た」。短歌の勉強のために、4年前、ブログで「穂村弘百首鑑賞」という連載を始めた。人づてに連載を知った穂村は、読みの確かさと恐れずに断定する書きぶ りを気に入り、一緒に本を作ろうと提案した。
 山田は、穂村の初期作品〈子供よりシンジケートをつくろうよ「壁に向かって手をあげなさい」〉に 「己の存在が社会化してゆくことへの拒否と嫌悪」を読み取り、〈その甘い考え好きよほらみてよ今夜の月はものすごいでぶ〉に景気高揚期独特のはしゃぎムー ドを指摘する。穂村は「あのころは何ものにもとらわれずにイメージを駆使していると思っていたのが、実はバブル的感受性に根ざしていた。それがあの時代を 知らない人には一目瞭然で、今となっては恥ずかしい作品もある」と苦笑する。
 だが、山田は「ぼくは輝かしいと思った。ぼくらの時代はひとの気持 ちを読むことをひたすら求められてきた。穂村さんはひとの気持ちが分からないことをマイナスと思っていない。絶対に理解できない相手を愛している気がし た。自分に思いもよらない外部があることに気づけた」という。
 2000年代半ばから、穂村は〈ゆめのなかの母は若くてわたくしは炬燵のなかの火星探検〉のような昭和ノスタルジーを感じさせるうたを作っている。「昭和とは一体何だったのかという感じが強い」という。
  一方の山田は、米国の9・11以降、完全に「イメージと実体の境界線がなくなり、だれもがそれぞれのファンタジーの中に生きる時代になった」と感じてい る。うたうべき現実がイメージになってしまった時、どうやってうたうか。「手がかりになるのは、やはり自分の生まれ育った北海道という場所や風土性みたい なものかもしれない」と考えている。(伊佐恭子)

この記事に関する関連書籍

世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密

著者:穂村弘、山田航/ 出版社:新潮社/ 価格:¥1,680/ 発売時期: 2012年06月

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