2012年8月28日火曜日

asahi shohyo 書評

気象を操作したいと願った人間の歴史 [著]J・R・フレミング [訳]鬼澤忍

[評者]川端裕人(作家)  [掲載]2012年08月26日   [ジャンル]アート・ファッション・芸能 

表紙画像 著者:ジェイムズ・ロジャー・フレミング、鬼澤忍  出版社:紀伊國屋書店 価格:¥ 3,360

■大きすぎる工学に歴史の教訓

 著者は雲物理の研究歴があり、気象改変の歴史研究を専門にする 科学史家。先住民の雨乞いから始まり、19世紀の大砲を使った降雨技術、各種化学物質を蒸散させる方法、更には20世紀、飛行機で粒子を播(ま)く人工降 雨や大気圏遥(はる)か上空で水爆を爆発させる実験まで! 天候改変の試みの歴史書としてまずは興味深い。
 その上で現在地球工学と呼ばれる地球 規模の気象改変構想に切り込む。例えば「温暖化」に対抗するため、宇宙に鏡を打ち上げ「日傘」にする。硫酸塩を高層大気に散布し太陽光を反射させる。海で 藻を大発生させ二酸化炭素を取り込む。結果、空に影ができ、空が白くなり、海がどろっとした緑になるかもしれないが。
 これらの構想には、ある種 現実離れした滑稽さを感じないだろうか。しかし気候変動への積極策としてこの手の議論は今後増えそうだ。著者は「歴史の前例とは無縁だと思い込んでいる」 地球工学者にこそ「歴史的前例」が必要という。なぜなら連綿たる気象改変の歴史は、つまるところそれが単純ではなく、想定通り目標が達成されるのは希(ま れ)だし、思わぬ副作用を伴う可能性を示して余りあるからだ。
 ノーベル賞学者ラングミュアの挿話が象徴的だ。「病的科学」の概念を提唱した本人 が、後半生、自ら病的科学者になった。ハリケーンの進路を変えられると信じ、統計学的に否定されても自説を曲げなかった。彼はおそらく間違っていたが、も し正しかったとしても、人工的にねじ曲げたハリケーンの行き先の都市や国には当然責任が生じる。「病的科学だけでもやっかいだが、病的エンジニアリングは 実際に大災害を生み出してしまう」と著者はいう。
 大きすぎる工学は思わぬ所で破綻(はたん)する可能性がある。原発事故を経験した我々はすんなり理解できるだろう。十分な謙虚さと畏怖(いふ)を持ちつつ効果的で公正な解決を実現できるか。歴史を通じ問いかける。
    ◇
紀伊國屋書店・3360円/James Rodger Fleming 米国コルビー・カレッジ教授(科学技術史)。

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著者:ジェイムズ・ロジャー・フレミング、鬼澤忍/ 出版社:紀伊國屋書店/ 価格:¥3,360/ 発売時期: 2012年04月

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