みんなの家。[著]光嶋裕介
[文]須藤輝 [掲載]2012年08月31日
みんなの家。いいタイトルだと思った。副題には「建築家一年生の初仕事」とある。著者はドイツ帰りの若手建築家で、「初仕事」の施主は、思想家であり合気道の師範である内田樹。本書は、内田の道場兼自宅「凱風館」ができるまでの記録である。
1つの建築は「みんな」の共同作業で完成する。林業者、工務店、左官職人、瓦職人などなど。各々がプロフェッショナルであり、各々の物語が幸運な偶然をはらみつつ有機的に結ばれていく様子に「どんな家ができあがるのだ?」と、我がことのように胸が躍る。
住宅は住む人の「自我のメタファー」である、と著者はいう。当代きっての論客・内田の周りには様々な人々が集い、彼を中心とした共同体が形成される。「凱 風館」は個人の家として完結するのではなく、パブリックな道場(学びの場)あるいはセミ・パブリックな書斎(研究・執筆だけでなく宴会や麻雀もできる)と して「みんな」に開かれている。それはかつての地域社会の縮図にも見え、現代における建築の1つの理想型を示している。
この記事に関する関連書籍
著者:光嶋裕介、井上雄彦、内田樹/ 出版社:アルテスパブリッシング/ 価格:¥1,890/ 発売時期: 2012年07月
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