「地域再生」の現場紹介 金沢大・香坂准教授が新刊
[文]樋口大二 [掲載]2013年01月29日
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金沢大准教授の香坂玲(りょう)さん(37)が「地域再生——逆境から生まれる新たな試み」(岩波ブックレット、672円)を刊行した。熊本県水 俣市や北海道夕張市、三重県四日市市、宮城県気仙沼市など全国の9自治体に取材し、新しい町づくりを模索する各地の動きを紹介している。
自治体をウオッチするようになった原点は「水俣を訪れた体験」という。大学生のとき、水俣市を初めて訪ねた。知識として知っていた水俣病の歴史と、実際に目にした海の穏やかさや自然の豊かさに、強烈なギャップを感じた。
現地ではいま、公害の歴史を前面に出さずに観光誘致に力を入れるべきだという意見もある。「しかし現実をなかったことにはできない。やはり過去の歴史を踏まえてそれを打ち出さなければ、再生は難しい」と香坂さんはいう。
水俣では、地元のNPOなどが、水俣病の「語り部」の話を聞いて農林漁業を体験するツアーを企画し、観光客を呼び込もうとしている。「訪れる側にとって も、自分の歴史を振り返り内省につながるような場所になりうる。水俣は、震災や原発事故の影響を受けた地域の再生にもヒントを与えてくれる」と指摘する。
夕張や四日市も、「負の歴史」を背負ったところから再生が出発した。もちろんそんな逆境のドラマをもった地域ばかりではない。
本書では、里山里海の自然と文化を生かす能登町や、近郊農業と加工業、観光をリンクさせ第1次産業から第3次産業までの数字をかけ合わせた「6次産業」に活路を見いだした埼玉県神川町の取り組みも取り上げている。
「現場を歩いた研究者として、固定されたイメージとは違う現実を伝えていきたい」。国連生物多様性条約に事務局スタッフとしてかかわり、昨年4月から金沢大に赴任した。専門は森林経済学で、木材資源の活用や都市と農村の共存が目下の関心事だ。
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