はじめての装飾古墳 多彩な絵柄、想像膨らむ「黄泉」
[掲載]2013年01月28日
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「装飾古墳」とは、墓室の壁や石棺を線刻や彩色で装飾した古墳だ。その数は全国各地に約700基。そこには、驚きとなぞに満ちた「黄泉(よみ)の世界」が広がっている。 赤い舌を出す竜や、船に乗る人物、石室を彩る無数の三角文様……。装飾古墳の絵柄は多彩だ。
中でも福岡県の遠賀(おんが)川流域にある王塚古墳(前方後円墳、6世紀中ごろ)の豪華絢爛(けんらん)さは、装飾古墳の白眉(はくび)といわれる。石室 の奥に2人の遺体を納められる「石屋形(いしやかた)」があり、壁面には赤、黄、緑、黒、白の5色で三角の連続や同心円などの文様、大刀などの武器や武 具、騎馬人物像がびっしりと描かれている。
古墳時代(3世紀中ごろ〜7世紀)の日本列島で造られた古墳や墳丘のない横穴墓(よこあなぼ)は約 30万基。このうち装飾古墳(横穴墓も含む)は670基ほどだ。熊本195、福岡71、宮崎60、佐賀30、など全体の半数を超える計386基が九州に集 中。次に鳥取52、神奈川46、千葉33、大阪30、と続く(熊本県立装飾古墳館調べ)。
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死者が眠る石室の装飾には、どんな 意味があるのか。始まりは、装飾古墳が多い九州ではなかった。4世紀末、大阪や福井の古墳で、石棺のふたなどに直線と弧線を複雑に組み合わせた「直弧文 (ちょっこもん)」、太陽や鏡を表す円形などが刻まれた。何かを帯で厳重に封じ込める呪術的な意味などの見方がある。
熊本県山鹿(やまが)市のチブサン古墳(6世紀前半)には、冠をかぶり両手を広げた人物が、赤・白・青の菱形(ひしがた)文や白い円とともに描かれている。悪霊から被葬者を守ろうとしているようにも見える。
6世紀には中国の神仙思想などの影響を感じさせる装飾が登場する。福岡県の竹原古墳には死者を天界へ導く馬や、四方の守り神「四神」の朱雀、玄武、青竜ら しい絵がある。大阪府の高井田横穴群(6〜7世紀)に刻まれた船(ゴンドラ)に乗る人物は、死後の国へ旅立つのか。奈良県の高松塚・キトラ両古墳(7世紀 末〜8世紀初め)は、四神や星座などの極彩色壁画に飾られる。
ただ、東日本では様相が違うようだ。茨城県の虎塚古墳(7世紀)には独特の円文、 福島県の清戸迫(きよとさく)横穴には渦巻文(うずまきもん)や人物画が描かれるが、白石太一郎・大阪府立近つ飛鳥博物館長は「九州と異なる東日本独特の 文様であり、意味を読み取るのは難しい」と語る。
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装飾古墳は今、受難の時を迎えている。カビ対策の不手際で壁画が劣化した高 松塚古墳に続き、岡山市の千足(せんぞく)古墳(5世紀)でも石室の直弧文を刻んだ石の劣化が判明し、解体修理中だ。清戸迫横穴は東日本大震災で事故を起 こした東京電力福島第一原発の警戒区域内。管理できず、伸びた木の根による損傷や塩害が心配される。
一方、虎塚古墳は、発見から40年を経てもカビ被害などのない「成功例」として知られる。「装飾古墳は日本の絵画史の巻頭を飾る第一級の資料です」と白石館長。我々も関心を持って見守りたい。
(大脇和明)
◆読む
装飾古墳の概要を知るなら柳沢一男『描かれた黄泉の世界 王塚古墳』(新泉社)が分かりやすい。辰巳和弘『他界へ翔(かけ)る船—「黄泉の国」の考古学』(同)は古代人の他界観に深く踏み込む一冊だ。
◇奇抜で激しい発想、魅力的 マンガ家・諸星大二郎さん
装飾古墳を初めて作品で扱ったのは、1974年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載を始めた「妖怪ハンター」シリーズです。考古学者が九州の小さな村の「比留子(ひるこ)古墳」を訪ねる。そこにチブサン古墳の両手を広げた人に似た絵があるという設定。
実は、僕は九州の装飾古墳を訪ねたこともないし、石室をのぞいたこともない。装飾古墳の写真集を見て、そのすごさに驚いて作品に取り込んだ。王塚古墳もそうですが、縄文土器や土偶の奇抜さや激しさなど、現代の我々とは違う発想に強くひかれます。
装飾古墳だけでなく、邪馬台国や卑弥呼、九州の石人・石馬などもないまぜにしてストーリーを仕立てた。次の作品「暗黒神話」(76年)でも竹原古墳や日岡(ひのおか)古墳、珍敷塚(めずらしづか)古墳などを描いたけど、適当な部分も多いんですよ。
「異界」のもの。それが装飾古墳のイメージです。連想するのは「古事記」。イザナギ、イザナミが初めに産んだ「ヒルコ」が葦(あし)の舟で流される。黄泉 の国を訪ねたイザナギが、腐ったイザナミの姿を見る。そんな場面がとても怖くてリアルで、装飾古墳の「異界」と重なるんです。
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