絵金 極彩の闇 [監修]高知県立美術館
[文]大西若人 [掲載]2013年01月06日
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フェルメールの油絵だって、宗達の屏風(びょうぶ)だって、鑑賞の場所は美術館、というのが現代の相場だ。しかし土佐の国、高知県では今も、夏の祭礼になると境内や店の軒先に芝居絵屏風を出して、ろうそくの光などで照らし出す町が、10カ所ほどもあるという。
この画集も、そんな写真で始まる。続くのは、幕末・維新の土佐で芝居絵屏風を描いた「絵金」こと絵師・金蔵の作品の数々。昨秋に高知県立美術館で開かれた大規模な絵金展の図録でもある。
男も女も動き出さんばかりの力感、ねじれうねるような構図で描かれ、そこに赤、青、緑の極彩色が載る。とりわけ、これでもかというほどに、血が滴る。
歌舞伎や浄瑠璃の物語を描いた芝居絵は180点ほどが収まっているものの、金蔵の作と見られるのは一部に過ぎない。多くは、絵金ブランドの工房作のような存在だったり、弟子のものだったり。
金蔵は狩野派に学び、御用絵師になるが、贋作(がんさく)に関わったともされ、町絵師に。だが芝居絵以外の作品を見るとずっと正統的で、子供や動物を愛ら しく描いたものも多い。興味深いのは、芝居絵に科学調査を施した松島朝秀氏の論考。色材や技法に独自性はなく、誰もが絵金風に描ける「生産」の立場をとっ ていたのではないか、鮮やかな色彩は鏝絵(こてえ)や絵看板の建築彩色に近い、というものだ。
かつて芝居絵には、屋外の祭礼に合わせて描かれた消耗品の面もあったようだ。揺れるろうそくの光に浮かぶ絵金の芝居絵屏風は、作家性においても展示方法においても、近代以降の美術の価値観を心地よく揺さぶってくれる。
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グラムブックス・3990円
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