こころ朗らなれ、誰もみな [著]アーネスト・ヘミングウェイ [訳]柴田元幸
[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) [掲載]2013年01月27日 [ジャンル]文芸
■優しく暖か 新たな作家像
まず、なんといってもこのタイトルが実にすがすがしく、かっこい いではないか。原題は、God Rest You Merry, Gentlemen。新潮文庫の高見浩訳では「神よ、男たちを楽しく憩わしめたまえ」と なっている。ともすれば、マッチョなイメージの強いヘミングウェイだが、翻訳の名手、柴田元幸は一風変わった物語ばかり19を選び、軽やかに訳してみせ た。
柴田訳の極意は、原文の言葉をできるだけその出現順に忠実に日本語に置き換える、というところにあると思う。英語と日本語の構文の差の性格 上、その操作は短い文の連なりとなって表れる。それが自然に、シンプルなリズム、やわらかな情感、そこはかとないユーモア、暖かい空気となって立ち上がっ てくる。
クリスマスに病院に集うどこか壊れた人々に注がれる優しい眼差(まなざ)し。ヘミングウェイはほんとうはこういう作家だったのかもしれない。そんなことを気づかせてくれる素敵(すてき)な短編集。
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スイッチ・パブリッシング・2520円
この記事に関する関連書籍
著者:アーネスト・ヘミングウェイ、柴田元幸/ 出版社:スイッチ・パブリッシング/ 価格:¥2,520/ 発売時期: 2012年11月
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