2013年9月28日土曜日

asahi shohyo 書評

『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩 [著]大津雄一

[評者] 田中優子(法政大学教授)  [掲載]2013年09月22日   [ジャンル]歴史 

表紙画像 著者:大津雄一  出版社:NHK出版 価格:¥ 1,050

■平清盛は「英雄」ではなかった

 『平家物語』が叙事詩であり平清盛は英雄として描かれている という評価は大学生のころに読んだ。しかし日本には「叙事詩」はなく、英雄という概念もない。『平家物語』には日本の武士道が描かれているという評価も あったが、武士道という概念は中世には無い。いずれも明治以降の欧米化にともなって、西欧文学・文化の基準を日本文学に当てはめた評価だったのである。
  日本の文学や文化を研究する者は常に時代の言葉に巻き込まれる。注意深く言葉を使わねばならない。もっとも気をつけるべきなのは、伝統が政治に利用される 場面だ。武士道は国体と合体して、あたかも伝統であるかのように振る舞った。『平家物語』も国民道徳、国民精神を研究する資料とされたことがあって、皇国 文学とか国民文学と呼ばれた。それが蘇(よみがえ)らないとも限らない。著者が言うように、日本の特殊性を語るためにではなく、人類の普遍的な課題を語る ための方法こそ、模索されねばならないのだ。
    ◇
 NHKブックス・1050円

この記事に関する関連書籍

『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩

著者:大津雄一/ 出版社:NHK出版/ 価格:¥1,050/ 発売時期: 2013年07月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(1 レビュー(0 書評・記事 (1


平家物語 4

著者:梶原正昭、山下宏明/ 出版社:岩波書店/ 価格:¥1,470/ 発売時期: 2008年11月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (2

0 件のコメント: