『平家物語』の再誕 創られた国民叙事詩 [著]大津雄一
[評者] 田中優子(法政大学教授) [掲載]2013年09月22日 [ジャンル]歴史
■平清盛は「英雄」ではなかった
『平家物語』が叙事詩であり平清盛は英雄として描かれている という評価は大学生のころに読んだ。しかし日本には「叙事詩」はなく、英雄という概念もない。『平家物語』には日本の武士道が描かれているという評価も あったが、武士道という概念は中世には無い。いずれも明治以降の欧米化にともなって、西欧文学・文化の基準を日本文学に当てはめた評価だったのである。
日本の文学や文化を研究する者は常に時代の言葉に巻き込まれる。注意深く言葉を使わねばならない。もっとも気をつけるべきなのは、伝統が政治に利用される 場面だ。武士道は国体と合体して、あたかも伝統であるかのように振る舞った。『平家物語』も国民道徳、国民精神を研究する資料とされたことがあって、皇国 文学とか国民文学と呼ばれた。それが蘇(よみがえ)らないとも限らない。著者が言うように、日本の特殊性を語るためにではなく、人類の普遍的な課題を語る ための方法こそ、模索されねばならないのだ。
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NHKブックス・1050円
この記事に関する関連書籍
著者:大津雄一/ 出版社:NHK出版/ 価格:¥1,050/ 発売時期: 2013年07月
著者:梶原正昭、山下宏明/ 出版社:岩波書店/ 価格:¥1,470/ 発売時期: 2008年11月
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