2013年9月7日土曜日

asahi shohyo 書評

今昔妖怪大鑑 [著]湯本豪一

[文]北澤憲昭  [掲載]2013年09月01日

百鬼夜行絵巻(部分) 江戸時代 拡大画像を見る
百鬼夜行絵巻(部分) 江戸時代

表紙画像 著者:湯本豪一、パメラ・ミキ  出版社:パイインターナショナル 価格:¥ 2,940

 題名のとおり、古今にわたる妖怪たちの図像を集めた本である。掲載されているのは、すべて著者のコレクションで、地域は日本に限られるものの種類 は多岐にわたっている。絵巻、浮世絵はもちろん、双六(すごろく)、かるた、紙芝居、そして衣裳(いしょう)や器物、さらにはポスターに至るまで、じつに さまざまだ。まさしく「大鑑」の名にふさわしい。
 夜ごと質屋の蔵のなかで、帯と羽織が相撲をとったり、浴衣が踊り出したりと、質草たちが陽気に 騒ぎ出す「質屋蔵」という落語がある。「付喪神(つくもがみ)」と呼ばれる妖怪たちのはなしだが、どうやら土蔵は妖怪にとって快適な環境らしい。闇の溜 (たま)りができやすい空間だからである。妖怪は闇を生き、闇に憩う存在なのだ。
 たとえば、本書に収められた江戸時代の「百鬼夜行絵巻」には、青い霞(かすみ)のようなものが漂っており、百物語に際して行燈(あんどん)に青い紙を貼ったという故事を連想させるのだが、著者はこれを闇の表現とみている。
  ところが、都会ではその闇が失われて、すでに久しい。フィラメント電球が主流の頃には、黄昏(たそ・がれ)から夜にかけて闇がそこここに息づいていたもの の、蛍光灯が主流になってからは、光が夜を制覇した観がある。屋外でも水銀灯の白々とした光や深夜営業のコンビニが闇を退けている。妖怪たちは、さぞ蝋燭 (ろうそく)や行燈の時代を懐かしんでいることだろう。
 しかし、光が闇をはらむということもある。たとえていえば、過剰な露光にフィルムの明暗が逆転するソラリゼーションのようなケースだ。光に充(みち)る都市にも、だから必ずや妖怪は潜んでいる。昼夜を問わぬ白い闇を棲家(すみか)として。

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今昔妖怪大鑑

著者:湯本豪一、パメラ・ミキ/ 出版社:パイインターナショナル/ 価格:¥2,940/ 発売時期: 2013年07月

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