2013年9月20日金曜日

asahi shohyo 書評

へんないきもの [著]早川いくを

[評者]大貫妙子(シンガー・ソングライター)

[掲載] 2013年09月20日

表紙画像 著者:早川いくを  出版社:新潮社 価格:¥ 540

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■身一つで生き抜いてきた、まるごしの生物

 地球に生命が誕生して40億年、それは絶滅の歴史だった。地球上の生物は、その歴史の中で5回も大量絶滅してきたそうだ。それは「絶滅のビッグファイブ」と呼ばれる。
 1回目は約4億4000万年前のオルドビス紀末。推定で地球上の生物種の85%が絶滅。
 2回目は約3億7000万年前のデボン紀後期。同82%が絶滅。
 3回目は約2億5000万年前のペルム紀末。同95%が絶滅。
 4回目は約2億1000万年前の三畳紀末。同76%が絶滅。
 5回目が約6500万年前の白亜紀末。同70%が絶滅。
 そして、現在は「6回目の大量絶滅期」と呼ばれ、「1年間に4万種」もの様々な動植物が猛烈な速度で消えてなくなっているという。さらに、新種が発見されることもあるが、発見されないままひっそり絶滅していく種もあるだろう。なんと、痛ましく悲しいことではないか。
 さよなら、へんないきものたち。
    *
 本書には、約70種の「へんないきもの」が登場する。知っているものもあれば、へ〜ぇ知らなかったなぁ、というものもある。いきものたちは丁寧なイラストで描かれていて、そのうえ驚くべき生態についてのユーモアをまじえた解説付き。だから見て読んで楽しい。
 たとえば「ハダカデバネズミ」の解説はこうだ。
 「穴掘りという目的だけのために、目も捨て、耳も捨て、毛皮も捨て……掘削バカ一代ともいえる地中哺乳類。ベトコンゲリラもびっくりの、総延長3キロにも及ぶ一大トンネル網を築き集団で暮らしている」
 そして、働き者のアリでも全体の2割はサボり、怠け者を排除しても残る働き者のうち2割はやっぱりサボる、という北海道大学の研究結果から、「ハダカデバネズミにもこの法則があてはまるらしく、(サボリを)見つかると女王にドつかれる」。笑える。
 「多脚タコ」の解説もいい。
  「日本で消費されるタコの7割はモロッコからの輸入であったが、輸入拡大で乱獲が起き、漁獲高は激減。モロッコ政府は資源保護の見地から禁漁を決定した。 タコヤキ屋は大打撃だという」。私は日本人がそんなにタコ好きとは思わなかったが、「こんなに獲(と)り放題に獲っていると中には変なものも混じることが ある。昭和32年、三重県答志島で足が85本あるタコが捕れ、あまりに珍しいので酢ダコにはされず標本にされた」という。「だがその後、96本足というさらなる強者が見つかったそうだ。上には上のタコがいる」
    *
  何かのちょっとした待ち時間に、ツイッターなどを見ている方も多いと思うが、ほとんどがヒト社会の出来事で溢(あふ)れている。そんなとき、なかなかお目 にかかれない隣人(?)の暮らしを想像してみるのは楽しいし、じつはこの星がとてつもなく豊かであることにホッとする。著者の早川いくをさんは、へんない きものを通して生物への愛着を示し、我がもの顔のヒト社会の在り方に釘を刺しているのだろう。
 おまけとして書いておくが、続編のベストセラー 「またまたへんないきもの」に登場する「ツノトカゲ」もすごい。見た目は恐竜の子孫みたいでも、「保護色に身を包み、ひたすら目立たぬよう這(は)いつく ばって暮らすうち、いつしか体も草加せんべい並にぺったんことなった、米国の砂漠に棲(す)む穏和(おんわ)なトカゲ」なのだ。
 けれども、このトカゲは「強力な最終兵器」を持っているという。「追いつめられると、あろうことか目から血を発射して敵を威嚇するのだ。貧血も辞さない、捨て身かつ突拍子もないこの反撃は、人間さえも茫然自失(ぼうぜんじしつ)とさせ、飢えたコヨーテも尻尾を巻いて退散する」。
 いいですねぇ。
 すべての生物は、まるごしである。身一つで生き抜いてきたのだ。同じ生物として、人間はちょっと情けなくないか……。「へんないきもの」たちの生態をちゃんと知ることすらせずに、ペット店から買って死なせてしまったり、こっそり川に捨てたりすることはもうやめましょう。

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