2011年6月3日金曜日

kinokuniya shohyo 書評

2011年05月30日

『ブスがなくなる日—「見た目格差」社会の女と男』山本 桂子(主婦の友社)

ブスがなくなる日—「見た目格差」社会の女と男 →bookwebで購入

「驚くほどわかりやすい「ブス論」」

 あまりに、ひねりがない書評のタイトルをつけてしまった。だが、それほどに本書の記述は明確で、その主張は分かりやすい。
 ブスとは一体何か。 「常識」にしたがうならば、物理的に顔の造作の美しくない女性をブスと呼び、美しい女性を美人と呼ぶものと考えられる。そして男性ならば、前者がブ男、後者がハンサムないしイケメンと呼ぶのだと。

 だが、こうした発想を著者は覆していく。むしろ、メイクの進化によって、こうしたブスは、絶滅しかかっているとすら言うのだ。このことが著作のタイトルにも表れている。

 実は、評者も長年のフィールドワークの中で、うすうすと同じような変化を感じていた。しかし、思いつきにすぎないような概念を温め続けるだけだっ たのだが、本書に出会って、そうした思いつきがこれほどに明瞭に言語化されていることを知り、思わず、読書中の電車内で「これだ!」とひざを打ってしまっ た。

 評者がフィールドワークをしてきたのは、男性アイドルの女性ファンたちである。1990年代から継続して行ってきたのだが、よく言われていたの は、「男性アイドルとは、彼氏ができない女性たちが代替として求める疑似恋愛の相手に過ぎない」という解釈であった。もっと、ストレートにいえば、「追っ かけにはブスが多い」といった物言いであった。

 だがこの物言いは、フィールドに出てみることで、覆されていくことになった。先のブスの定義に倣うならば、当時の追っかけたちは、物理的にはブス ではない女性が多かったのだ。むしろ「顔の造作は悪くないんだから、もうちょっとメイクをがんばったら、きっと美人に見えるのになあ」とか「しゃべり方を もうちょっと明るくしたら、かわいくなるのになあ」という感想を覚えることが多かった。

 そこで、論文や著作には記さなかったのだが、私が心のうちで思いついた概念というのは、「物理的ブス」と「社会的ブス」は違うというものだった。 前者は、物理的に造作が美しくない場合だが、後者は「自分がブスだと思い込んでいる(ないし、周囲から思い込まされている)」場合である。

 私が1990年代にフィールドワークをしていたころの追っかけには、実は後者が多かったのである。例えば、「追っかけも楽しいけど、クラスの男の 子とデートしたり、遊んだりしたいと思わないの?」と聞けば、「う〜ん、なんかそういう"自信"がないから。同じお金だったら、デートより、コンサート代 に回した方がいいかなって思う」と答えていた。つまり、「きっと自分はリアルの男子には相手にされない」、「きっと自分はかわいい女の子じゃない」と、思 い込んでしまうがゆえに、結果としてブスとしてふるまってしまっていたのである。
 したがって、ふとしたきっかけで「社会的ブス」ではなくなる場面にも多く遭遇してきた。たとえば、生活時間のほとんどをつぎ込むほどに熱心であったのに、彼氏ができたら、たちまちに追っかけを「卒業」していくようなことも多かった。

 近年では、追っかけのフィールドワークに出向いても、あるいは、普通に街中を歩いていても、ブスが本当にいなくなったと感じる。著者も指摘するように、メイクの進化によって、「物理的ブス」はもはや絶滅しかかっているのだろう。
 だが、「社会的ブス」の問題はまだまだ根深いようだ。著者も言うように、100%生まれ変わるかのような変身を遂げずとも、「従来品より20%アップ (当社比)」(P191)するだけで、十分にきれいに見えるようになるはずなのだが、なかなかそう気持ちが切り替えられない場合も多いようだ。ましてや、 これだけ世情が暗い社会においては、それも無理ない話なのかもしれない。


 あるいは、少し筆を滑らせるならば、「物理的ブス」が本当に絶滅してしまったならば、その先にはどんな未来が待っているのだろうか。誰しもが美人という社会はあり得るのだろうか。

 もしも、美人という存在が、その希少性においてもてはやされる存在なのだとしたら、絶滅しかかっているという「物理的ブス」こそが、未来において は、美人にとって代わることもあり得るのではないだろうか(そのように考えると、実は、「物理的ブス」という概念も、引いた目で見るならば、「社会的ブ ス」に含まれると言えなくもない。なぜならば、美醜の概念もまた社会的に異なるし、変化もするからである)。

 なお、最後にお断りしておくが、評者はルックスには全くと言っていいほど自信がない(書評ページの顔写真をご覧いただければわかるだろう)。むし ろ、近年でいうところの「非モテ」人生をまっしぐらに突き進んできたくらいだから、人様のルックスについて、あれこれいう資格などないと言われればそれま でかもしれない。よって、ここでに記した内容については、いかようなご批判をも甘受する。だが、そうした批判を想定してもなお、本書は紹介するに足る、面 白い著作である。



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