2011年6月14日火曜日

asahi shohyo 書評

時代が締め出すこころ—精神科外来から見えること [著]青木省三

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2011年6月12日

表紙画像著者:青木 省三  出版社:岩波書店 価格:¥ 2,205


■流動的な「適応」のモノサシ

 近年、発達障害の増加がしきりに言われる。特に日本では「成人の発達障害」への関心が突出して高いという。

 その背景には「空気を読む」ことをはじめ、過度にコミュニケーション能力を重視しすぎる社会のありようも大きく影響しているのではないか。著者の豊富な臨床経験から導かれたこの指摘に、私も全面的に同意する。

 本土の社会に適応できず障害者扱いだった青年が、瀬戸内海のある島ではその裏表のなさゆえに人気者になったというエピソードが印象的だ。とりわけ「個人の自閉性が社会の閉鎖性を切り開く」という指摘には膝(ひざ)を打つ思いがした。

 「こころ」の多様性に不寛容な社会に未来はない。「適応」のモノサシは常に流動的なのだ。「人生の大きな流れ」をふまえ「その人らしい生き方ができる方向」に寄り添うこと。震災後の今、こうした著者の姿勢は、傷ついた個人と向き合う際の大切な指針となるだろう。

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