2010年9月14日火曜日

asahi shohyo 書評

「国民歌」を唱和した時代—昭和の大衆歌謡 [著]戸ノ下達也

[掲載]2010年9月12日

  • [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

■戦意高揚歌からみる戦時下の姿

 国民歌とは何か。著者は「国家目的に即応し国民教化動員や国策宣伝のために制定された国もしくは国に準じた機関による『上から』の公的流行歌」と解く。国民歌謡、軍歌、戦時歌謡、必勝歌など多様な言い方をされるが、要は国家総力戦の「音」「歌」を指すわけである。

 本書はとくに昭和の戦争に伴う国民歌をそれぞれの時代背景と情報局・文部省により設立された日本音楽文化協会や新聞社、出版社 などがどのようにして戦意高揚歌を国民に歌わしめたのかを説明していく。たとえば1937年につくられた「愛国行進曲」歌詞の公募状況、審査員の氏名、販 売時の人気ぶりなど「挙国一致」が解説される。日中戦争、太平洋戦争の戦況悪化で、国民歌はどう変化したかも具体的に裸にする。

 ただ史実の記述に乱暴な表現があり、説明が皮相的すぎる面もある。事典風に整理したためか、詳細な解説が欲しい視点もある。と はいえ著者も指摘するように「国民歌を唱和した時代」を歴史化する作業は今始まったばかりとの結論はうなずける。本書がその先陣にとの意気込みに密(ひ そ)かに拍手を送りたい。

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