2010年9月1日水曜日

asahi shohyo 書評

ニッポンの風景をつくりなおせ [著]梅原真/おまんのモノサシ持ちや!—土佐の反骨デザイナー・梅原真の流儀 [著]篠原匡

[掲載]2010年8月22日

  • [評者]平松洋子(エッセイスト)

■直球勝負、いごっそうデザイナー

 でたっ。それも同時に二冊!

 わたしはぴょんぴょん跳ねて駆け回りたかった。梅原真はそういうキモチにさせる男です。

 一冊はデザインの作品集、もう一冊は仕事の流儀の解説。その副題に「土佐の反骨デザイナー」とある。頑固で武骨、生まれついての「いごっそう」なのに、愛嬌(あいきょう)があって繊細で。

 長いあいだ、高知県外の仕事は引き受けなかった。手がけるのは農林漁業、つまり一次産業と地域にかかわるものだけ。デザインのちからで経済を掘り起こし、地域や企業を活性化させる——これが、流儀をずどーんと貫いてきた一本柱だ。

 このひとが関(かか)わると、土地の風景や産物がきらきら輝きだす。「石ころも宝の山にできるがよ!」。こけおどかしではな い。黒潮町の浜を「砂浜美術館」と名づけて全国に知らしめた。ロゴやパッケージ、商品コンセプトまで手がけた馬路村「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」、隠岐島 海士町「島じゃ常識 さざえカレー」、「四万十川の青のり」……みな破竹の勢いに育てた。「ゆずの村」をブランドにした馬路村農協は、いまや年商三十八億 円を稼ぐ高知の星。八〇年代「なんでわざわざ『村』なんよ?」と、地元じゅうが商品名に失望したのに、断固譲らなかったのも梅原真だ。

 ひねるのはしゃらくさい。「土佐 一本釣り藁(わら)焼きたたき」に添えたコピーは「漁師が釣って、漁師が焼いた」。つねに直球勝負。商品じたいをメッセージにする技が効いている。なにより、おいしそう。

 外ばっかり気にしてほかを追いかけるのはあかんやろう。自分の足もとに価値あるエエもんがあるやろう。アカンヤンカマン((C)大橋歩)は、故郷高知への愛情と苛(いら)立ちを武器に「あかんやんか」と吠(ほ)えつづけてきた。

 いま吠えているのは「84(はちよん)プロジェクト」。製造品出荷額四十七番めのビリッケツでも、高知の森林率は日本一だ。

「高知のアイデンティティは龍馬じゃないろ。84%の森林やろ」

 梅原真はニッポンの風景をデザインのちからで再生する、まっことの男じゃき。

    ◇

 『ニッポン〜』/うめばら・まこと▽『おまん〜』/しのはら・ただし

表紙画像

おまんのモノサシ持ちや!

著者:篠原 匡

出版社:日本経済新聞出版社   価格:¥ 1,680

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