2010年5月15日土曜日

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非日常「装置」で描く日常 刑事ドラマ、4月好調スタート

2010年5月15日

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 テレビドラマの刑事・警察ものが好調だ。4月にスタートした6本すべてではないが、比較的良い視聴率をマークしている。あまたあるドラマの中で、なぜ視 聴者に選ばれているのだろうか。

■使い勝手いいドラマ性

 今季に放送されている刑事・警察ドラマのうち、初回で21.0%とトップの視聴率(関東地区)を挙げたのはTBS系の「新参者」だ。阿部寛演じる刑事 が、赴任したばかりの日本橋署管内で起きた殺人事件の犯人を追う。原動力になっているのが原作者のベストセラー作家・東野圭吾によるストーリー展開の巧み さだ。

 毎回、容疑者と見まがう怪しい人物が登場しては、捜査線上から消えていく。最初の事件の犯人はわからないまま。事件を追いつつも描かれているのはむし ろ、事件の周辺にいる普通の人たちの悲哀や機微だ。

 テレビ朝日系で放送中の「臨場」と「警視庁失踪(しっそう)人捜査課」もそれぞれ、横山秀夫、堂場瞬一という人気作家の小説が原作。臨場は死体を調べさ せたら右に出る者がいない敏腕検視官が主人公で、失踪人捜査課は「犯人を追う」のではなく、いなくなった人を捜しながらその人生に迫るといったひとひねり ある内容だ。

 刑事ドラマを今季に4本並べたテレビ朝日でドラマ制作を統括する桑田潔・制作2部長は、「人の生死や犯罪に直面する刑事という職業には自然と高いドラマ 性を背負わせることができる」と使い勝手の良さを強調する。事件の解決を目指すという筋が一本通っているため、多様な人物が登場し社会情勢を取り入れた複 雑な展開をしても視聴者がついて来やすいという特徴もある。

 桑田さんは「意識して刑事ものをそろえたわけではない」というが、多忙な人でも見やすい一話完結型が多く、結果的に有力なジャンルになっていると語る。 さらに裁判員制度のスタートや殺人事件などの時効廃止・延長などの影響も指摘する。犯罪や事件に対する世論の注目の仕方に変化があるのか「刑事ドラマに対 する共感が高まっていると感じることもあります」。

 早稲田大学文化構想学部の岡室美奈子教授(現代演劇・テレビ論)は、人間の普通の営みを表現するために、かえって警察という非日常的な舞台が必要とされ ているとみている。「他者との出会いが、犯罪のような人の生と死にかかわるぎりぎりの状況でしか描けなくなっているのかも知れない」からだ。警察官は職務 上、いや応なく他人の人生に巻き込まれ、対峙(たいじ)しなくてはいけない。その性質を利用した「装置」として機能しているとの見立てだ。

 フジテレビ系のヒット作「踊る大捜査線」も、警察という特別な場所を借りて会社など身近な組織を描こうとした。医師を主役にした病院ドラマが多いのも同 じ文脈で理解できるのではないかという。

■つながり描くこと期待?

 ではなぜ、ぎりぎりの状況でしか他者と出会えないのだろうか? 岡室さんは「難しい問題だが、私たちが現実に抱えるコミュニケーション上の問題が根底に あるのではないか」と推測している。

 岡室さんは、「世界の中心で、愛をさけぶ」のように、ドラマがたとえば恋愛の当事者だけの物語になり、「他者」やコミュニティーを失っていくのではない かという危機感を感じていたという。「だけど、人の生死にかかわる極限的な状況とはいえ、警察を舞台にした人間の物語が支持されるというのは、ドラマにま だ、他者とのつながりを描くことが期待されていることの証しかなと思います」と一片の希望も見いだしている。

 放送に詳しいジャーナリストの坂本衛さんは、「ごくせん」や「花より男子」、「のだめカンタービレ」などに象徴される特異なシチュエーションを舞台にし つつ、そこにリアルな人間関係や営みを織り込んだドラマの隆盛との関連を指摘する。「ホームドラマも青春ドラマも、恋愛ドラマもファンタジーにするしかな い時代。それに比べたら刑事ものは作りやすいということですかね」。(田玉恵美)





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