2010年5月12日水曜日

asahi shohyo 書評

戦間期日本の社会思想—「超国家」へのフロンティア [著]福家崇洋

[掲載]2010年5月9日

  • [評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政 治思想史)

■ ファシズムに「超国家」の契機

 「国家至上主義から人間をどのようにすれば解放できるか」

 そんな問いを発した著者がとりあげるのは、これまで「ファシズム」と見なされてきた思想と運動である。本書は、「極端な国家主 義」と理解されてきた思想の中から、国家を超える構想(「超国家」)を微細に抽出する。

 特に著者が注目するのが、高畠素之らの国家社会主義であり、彼らが参加した「老壮会」である。1918年に開会した老壮会は、 共産主義者からアジア主義者、そして軍人まで多種多様な人物が参加し、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論が展開された。著者はここに「既存の対立軸を溶 解させる取り組み」を見いだす。そして、異質な他者との関係の中から国家の変革を模索したプロセスに「超国家」への契機を垣間見る。

 しかし、この取り組みは成功しなかった。20年代以降の国家社会主義者たちは、イタリア・ドイツのファシズムに「超国家」の可 能性を見いだそうとするが、その流れは最終的に国家統制の流れにのみ込まれた。

 このアイロニカルな顛末(てんまつ)をどう見るべきか。時代との葛藤(かっとう)の中で潰(つい)えていった思想の可能性を、 本書は現代に逆照射する。

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