高橋文学論、ツイッターで 読者と対話「路上ライブ」
2010年5月7日
作家の高橋源一郎さん(59)が今月2日から、インターネット上のツイッターで、文学論を つぶやいている。特定の時間に書き込み、読者と直接やりとりをする。「生放送のラジオ番組のようなもの」だと高橋さん。文学とツイッターの出あいに、どん な関係を見いだそうとしているのか。
企画のきっかけは、新作小説『「悪」と戦う』(河出書房新社)を刊行することだ。今月14日の発売日まで、ネット上で「メイキ ングオブ『「悪」と戦う』」と題して連日つぶやくことにした。
ツイッターなので、1回に書ける量は140字まで。そのため毎回、午前0時ごろからの約1時間をかけ、20回ほどに分けて短い 文章を書き連ねている。事前に、こう宣言した。〈ぼくが原稿として書いているものと同等以上のクオリティーにすること。そしてそれを無料で配る〉
テーマは「小説とは何か」を読み手と共に考えること。初日は、2人の作者が共同で書く共作小説に触れた。
〈ぼくたちは、作者というものは一人であり、その一人しかいない作者のメッセージを解読することが「読む」ことだと「思わせら れている」〉が、〈小説というものは、ほんとうは「『私』は、『私』以外の他人、『私』以外の『私』を実は理解できない」ということを証明するために書か れている〉のだと。
読者からすぐに、〈意識的に(作家が)そう書いているということでしょうか〉という質問が届いた。高橋さんは〈自覚しないで書 けるのが理想ですね〉と返した。
毎日たいてい50〜60人から質問が届き、10人ほどに返事をする。以前は1日50人ほど増えていた高橋さんのツイッターの読 者数が、初日だけで500人増えたという。
なぜツイッターなのか。「文芸誌だけが文学というものでもない。文学はもっとあらゆる場所に存在して良いと思った」と高橋さん は語る。
「ブログが特定の人を集わせるネット上の『店舗』だとしたら、ツイッターはいろんな人が発言する『大通り』。ツイッターで文学 論を書くことは、コンサートホールから出て路上ライブをすることに似ている。作家は小説を書くだけで、後は放っておいて良い時代ではない。公道に出て、読 者を広げたかった」
まとまったテキストではなく短い文章を次々に読者に届けていくという方法にも、可能性を感じている。「書いている時間を読者と 共有でき、読む人に思考の跡をたどってもらえる。コミュニケーション手段として面白い」
つぶやきは活字化が前提ではなく、高橋さんは「ツイッターだけでもいい」と話す。(高津祐典)
- 「悪」と戦う
著者:高橋 源一郎
出版社:河出書房 新社 価格:¥ 1,680
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