2010年5月19日水曜日

asahi shohyo 書評

銃・病原菌・鉄—1万3000年にわたる人類史の謎 [著]ジャレド ダイアモンド

[掲載]週刊朝日2010年5月21日号

  • [評者]永江朗

■よくぞ絶版にせず耐えた

 あちこちの書店のランキングにジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が登場している。どうして? と思った。というのも、こ の本が出たのは2000年の10月。もう10年も前の本なのだ。なんでいまごろ? という疑問はすぐ解けた。「朝日新聞」読書面の企画、「ゼロ年代の50 冊」で1位に選ばれたのである。

 「ゼロ年代の50冊」は、書評の書き手など151人からのアンケート結果。ゼロ年代、つまり2000年から2009年の間に出 た本から50冊を選んだ。ちなみに2位は村上春樹『海辺のカフカ』で、3位は町田康『告白』。

『銃・病原菌・鉄』は人類史に関する本である。問いがユニークだ。なぜ人間はその住む地域によってまったく違う発展をとげたの か。たとえばヨーロッパ人はアメリカ先住民を征服した。どうして逆じゃなかったのか。人種間、民族間で、知的能力の差はないことがわかっている。ならば同 じように発展してもいいはずではないのか?

 キーワードとなるのが、書名になっている銃と病原菌と鉄だ。これはもう偶然の産物としかいいようがない。たまたま与えられた条 件がそうだったから、ヨーロッパ人とアメリカ先住民の文化の違いが生まれたのである。いわゆる先進国は、べつにその地域の人たちが他の地域の人より優れて いたり努力したから成功したわけじゃない。たんにラッキーだったのだ。本書はまるでミステリーのように読め、知的興奮を味わえる。

 それにしても、と思う。出版界では「いまどき新聞書評なんて効かないよ」などとよくいわれる。書評が載っても本は売れない、と いう意味である。ところがどうだ。読書面の企画で取り上げられると、10年前の本でも全国の書店で売れるのだ。まだまだ書評欄には力がある。しかも出版元 の草思社は、この間いちど"倒産"して文芸社の支援で甦った。よくぞ『銃・病原菌・鉄』を絶版にせず耐えたものだと思う。その意味でもこのベストセラーは 感慨深い。

表紙画像

銃・病原菌・鉄〈上巻〉—1万3000年にわたる人類史の謎

著者:ジャレド ダイアモンド

出版社:草思社   価格:¥ 1,995

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