源氏の行間、香りで読む 研究家の嶋本静子さんが連続講座
2010年5月18日14時29分
嶋本静子さん
香りに照準を合わせて古典文学をとらえ直す——。そんな試みを続ける「香り研究家」の嶋本静子さんが、源氏物語の読み解きに挑む。今月29日に東京で始 まる連続講座「香りで読み解く『源氏物語』」だ。漂う香りがなぞめいた行間を埋め、物語や登場人物の新側面を透かして見せる。
嶋本さんの話題は縦横だ。古代ローマ時代のプリニウスの「博物誌」について語るかと思えば、体臭が性的魅力となった中国の楊貴妃についてひとくさ り……。香りと聞きさえすれば、古今東西に飛んで、それこそ話を調合し、これまで大学講義や市民講座などを重ねてきた。
「香りは鼻でかぐのではなく、脳で組み立てるもの。想像力の所産です」
平安貴族の衣装にたきしめられた香り、残り香、肌のにおい、それらの周辺に広がる闇や身じろぎ……。「源氏物語」には多様な香りや香りの気配が描かれ る。登場人物の心は、時として香りのゆらめきとパラレルに動くようでもある。
源氏の香りの謎解きを試みる講座は、玉川大学継続学習センター(東京都町田市)で行われる。取り上げるのは「空蝉(うつせみ)」「夕顔」など。「空蝉」 では、光源氏が暗中に高級な香りを放つ。「その香りには若い男性の肌のにおいも混じっていたのでしょう。空蝉がもう会えないと思ったのは、惑乱させる香り だったから」と読む。
「夕顔」では、なぞめいた女性である夕顔に源氏がひかれた理由を探ろうとする。「夕顔という花には、めまいがするようなグリーンフローラルという濃 厚な香りの成分がある」という。
「若い男性に香水をつけると、時間の経過とともに香りが変化して、何ともいえない良い香りになるんです」とも語る。今回も講座でこの実験をする予定だ。 女性の肌のにおいを調合で香水に閉じこめるため殺人を犯す人物を描いた映画「パフューム」にも触れる。
嶋本さんが香りに目覚めたのは幼児期。野草の種類も色形ではなく、においで覚えた。三十数年前、薬草学者モーリス・メッセゲの門弟の講習を受け、香りの 世界に深くのめり込む。古典文学に傾倒していたこともあって、現在のスタイルにつながった。
今、神奈川県鎌倉市内で香り用品専門店を営む。古代の香りを再現するため、古文書の記述にあたることもある。「香りは一生、記憶に残るものです。案外、 これが人生を左右することもあるのでは」(米原範彦)
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講座は7月3日までの6回。毎週土曜午前10時〜11時50分。計1万6千円。申し込みは今月28日までに同センター(042・739・8895)。
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