2013年4月19日金曜日

asahi shohyo 書評

鉄条網の歴史—自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明 [著]石弘之、石紀美子

[評者]荒俣宏(作家)  [掲載]2013年04月14日   [ジャンル]歴史 

表紙画像 著者:石弘之、石紀美子  出版社:洋泉社 価格:¥ 2,520

■家畜用から新たな環境の囲いへ

 鉄条網は西部劇を終わらせた。その発明者グリッデンが後妻に 「花壇が家畜に荒らされるので、何とかして」と頼まれたことから誕生したこの家畜フェンスは、家畜を制御するカウボーイを失職させた。辺境で大牧場を拓 (ひら)いた牧場主たちと、後から入植してきた開拓農民も敵対し、農地と家畜を守るのにガンマンと鉄条網を持ちだし、19世紀末にはジョンソン郡戦争のよ うな衝突となる。名作西部劇「シェーン」も、この時代と場所の話である。
 家畜の侵入と脱走を防ぐ鉄条網は、次に人間をも束縛する。戦場や強制収 容所では人間が鉄条網に囲い込まれるが、ここから現代の環境問題へ飛躍するのが本書の目論見(もくろみ)だ。鉄条網で人を遮断したチェルノブイリや朝鮮半 島の軍事境界線では、逆に自然が復活し動物が異常に殖えだす。立ち入りできなくなった福島原発事故区域も含め、鉄条網が創り出した新たな環境の未来がまだ 読めない。鉄条網の内側は深刻さを増している。
     ◇
 洋泉社・2520円

この記事に関する関連書籍

鉄条網の歴史 自然・人間・戦争を変貌させた負の発明

著者:石弘之、石紀美子/ 出版社:洋泉社/ 価格:¥2,520/ 発売時期: 2013年02月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (1

0 件のコメント: