昨日までの世界—文明の源流と人類の未来 [著] ジャレド・ダイアモンド
[文]永江朗 [掲載]2013年04月26日
■国家のない社会がいいわけじゃない
人類にとって文明とは何か。こんな大風呂敷を広げたようなノンフィクションって久しぶりだ。『昨日までの世界』は、『銃・病原菌・鉄』や『文明崩壊』のジャレド・ダイアモンドの新著。
「昨日」というのは、人間が国家や文字を持つ前の時代のこと。人類が進化してチンパンジーの祖先と別の道を歩むようになったのが600万年前。狩猟採集の 生活をやめて定住する農耕社会になったのが1万1千年前だそうで、時間の長さでいうと「昨日」のほうが圧倒的に長い。ニューギニアの高地などに住む人びと の生活を参考に、ダイアモンドはあれこれ考察を重ねていく。
「昨日」の世界を「伝統的社会」、西洋化された世界を「国家社会」とダイアモンドは呼ぶ。そして、領土や戦争、子育て、高齢者の処遇、危険に対する警戒心、病気など、実にさまざまな観点から両者を比較検討していく。
こういう話は、ときとして「昔はよかった。人類は進歩と引き換えに何を失ったのだろう」などと現代文明批判(と原始礼賛)に終わりがちなのだが、本書はそう単純ではない。
たとえば高齢者の処遇。フィジー諸島で会った男は著者に、アメリカ社会は高齢者に冷たいと非難がましく言う。日本でも、昔は年寄りをもっと大事にしたの に、という声をよく聞く。しかし、伝統的社会がどこも高齢者に優しいとは限らない。高齢者が強大な権限を持つ社会もあるけれども、その一方で、高齢者が餓 死したり遺棄されたり殺されたりする社会もあるのだ。そして、餓死させたり遺棄したり殺したりするのにも、それなりの理由というものがある。
国家のない社会が理想的かというと、個人的な喧嘩やグループ間の争いによる死者の多さを考えると、決してそうとはいえなさそう(まるでリバイアサン?)。
ベストは「昨日」と「今日」のいいとこ取り。著者もそう述べるのだけど、でも、できるかな。
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