電波天文学とともに歩む人生 平林久さん
[文]白石明彦 [掲載]2013年03月31日
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■観測がひらく不思議な宇宙
半世紀におよぶ電波天文学の歩みと、最新の宇宙像がおもしろい。それにもまして、併せて語られる電波天文学者の人生に心ひかれる。
長野県の貧しい農家で、7人きょうだいの末っ子に生まれた。日本の電波天文学を切り開いた畑中武夫の岩波新書『宇宙と星』に感銘し、天文学を志したとき、両親は反対しなかったが、親不孝だなと思った。
長野県の野辺山宇宙電波観測所で宇宙と向きあっていた時期に短歌を始め、朝日歌壇にのった歌がある。
かすかなるかすかなる光の極まりて山の端(は)小さきハレーをうみだす
「奥多摩まで彗星(すい・せい)を見に行き、あの稜線(りょう・せん)あたりから昇るのかと望遠鏡を向け、息を殺していると、山の端がかすかに白み、姿を現しました」
能も好きだ。時空が自在に変容する能舞台は宇宙そのもの、自分はその舞台のワキだと思う。
宇宙科学研究所では、電波天文衛星「はるか」のプロジェクトに携わり、地上の電波望遠鏡群と組みあわせて、口径3万キロもの仮想望遠鏡を作りあげた。はるかの寿命が尽きた05年11月30日は忘れられない。
「電源を切る時刻が11時28分08秒と読みあげられた瞬間、体の一部がなくなるような気がして涙が出ました。人の臨終と同じでした」
4歳のころ、父親が家の庭から、遠くの高い峠を指して言った。『大きくなったら、あの峠に連れてってやろう』と。約束はかなわず、天文学者になってから一 人で、その室賀(むろ・が)峠に立った。峠から見おろす故郷の村はいとおしいほど狭く、改めて宇宙の広さをかみしめた。
久々に心温まる天文書である。
◇
東洋書店・2310円
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著者:平林久/ 出版社:東洋書店/ 価格:¥2,310/ 発売時期: 2013年02月
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