精神科医が読み解く名作の中の病 [著]岩波明
[文]谷本束 [掲載]2013年04月19日
中上健次の『十九歳の地図』、角田光代の『八日目の蝉』などなど、名作文学の登場人物を精神科医が片っ端から診断、彼らの心に潜む意外な病を明らかにする異色の読書案内。
登場人物が悩んだり苦しんだり、人はそこに共感するのだが、医師が見るとパニック障害に離人症、統合失調症、生気的抑うつ、とまあ出るわ出るわ。健康の代 表みたいな『坊っちゃん』の主人公も「精神病性うつ病」。「生徒が自分を『探偵』している」と疑い、夜の学校で数十人が「床板を踏みならす音」を聞く彼に は妄想と幻聴が現れているという。
彼らの病はしばしば作家の精神状態そのものでもある。夏目漱石は正に坊っちゃんと同じ病だし、川端康成は少女の足裏フェチ、谷崎潤一郎はパニック障害だった。小説以上に特異な文豪たちの心のありようは、作品の思いもかけない別の顔をも浮かび上がらせる。
心を病む人間が創造した、心を病む人々の物語がなぜ多くの人の心を打つのか、と著者は書いている。人の世を面白くも味わい深いものにしているのは、健全な精神よりひとさじの狂気、なのかもしれない。
この記事に関する関連書籍
著者:岩波明/ 出版社:新潮社/ 価格:¥1,365/ 発売時期: 2013年02月
著者:中上健次/ 出版社:河出書房新社/ 価格:¥490/ 発売時期: 1981年
著者:角田光代/ 出版社:中央公論新社/ 価格:¥620/ 発売時期: 2011年01月
著者:夏目漱石/ 出版社:小学館/ 価格:¥460/ 発売時期: 2013年01月
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