奇跡を起こす 見えないものを見る力 [著]木村秋則
[掲載] 2013年02月01日
■虫も雑草も生きる土、食と農の大切さ説く
自然栽培に成功している方はみな、何年も何年もか けて自然と対話しながら方法を見つけ出したのだということを、あらためて思う。成功した方のやりかたをそのまま真似(まね)てみても、気候も場所も土も水 も見極めも、まったく同じであろうはずはないから、決して簡単なことではない。
「自然栽培の基本は、観察です。自分の手と目が、農薬や肥料の代 わりです。自然を観察する目を養い、働くことを惜しまない手を持たないと、農業はできません」「何かのせいにしているとき、人に答えを求めようとしている とき、魂が自分の体から抜けていないか、考えてみてください」
そう語りかけるのは、100年以上続く「農薬・肥料なしでは不可能」の常識に挑戦し、どん底生活から「奇跡のリンゴ」を生み出した著者の木村秋則さんだ。
農薬に弱い体質だった奥さんのために、無農薬のリンゴ栽培を思い立ったのが28歳の時。それから10年近くに及ぶ苦闘の日々、ひとつのリンゴを実らせることもできず、万策尽き死んで詫(わ)びようとロープを持って岩木山に登る。
彼はロープを枝に向かってなげたところ、外れて山の斜面の向こう側に落ちてしまう。最後の最後まで要領の悪い自分を嘆きながら、ロープを拾いにいくと、豊かに葉を茂らせているリンゴの木を見つける。
駆け寄ってみるとそれはリンゴではなく、堂々とした枝ぶりのドングリの木だったのだ。雑草だらけの足元の土はふかふかでやわらかく湿っていて、山の土独特の香りがしたという。
「この土を作ればいいんだ!」
それが、彼の長年探し求めていた答えだった。彼がそれまで一生懸命見ていたのは、幹や葉などの木の上の部分だけで、必死で虫を取り、雑草を敵とみなして刈り込むことだった。大切なのは木の下の見えない部分だったことを知る。
「土が豊かであれば、木が健康になるのは当然のことです」
この言葉は重い。人が生きるうえで最も大切なものは、「土」。「土」を「社会」に置き換えてみれば、現代の社会がいかに不健康な土壌であるかわかる。虫も 雑草も混然としてひとつの社会である。何を得たいのかわからぬまま農薬をまき散らしているのが、今の世界の在りようのように思う。
木村さんの自然栽培塾には毎回1000人以上の申し込みがあり、それは農業を目指す人ばかりではなく、彼の地に足が着いた話が聞きたいからなのだと思う。本書には「龍」や「UFO」の話も書かれているが、すなおに、彼なら見たのだろうと納得できでしまう。
「人は、食べなければ生きていくことができません。農業は、人間にとって何よりも大切な食糧を作る仕事。農業技術は、人類の共有財産だと思います」。実 際、農業に参加する若者、とくに女性の進出はめざましい。「池に小石を投げると、水面に小さな波紋が立ち、やがて大きく広がっていきます。そんな波紋が 今、点々と全国で生まれています」
小さな意識改革はすでに始まっている、という木村さんの言葉に、勇気をもらった。
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