2013年2月1日金曜日

asahi shohyo 書評

立花隆「宇宙からの帰還」 飛行士の内面に肉薄

[掲載]2013年01月31日

立花隆さん=松本敏之撮影 拡大画像を見る
立花隆さん=松本敏之撮影

表紙画像 著者:立花隆  出版社:中央公論新社 価格:¥ 840

 宇宙から地球を見る。月面を歩く。その時に宗教的な衝撃を受けた宇宙飛行士は少なくない。人間とは、地球とは、神とは。アメリカの宇宙飛行士12 人に話を聞き、その内面を探ったのが『宇宙からの帰還』(1983年)だった。田中角栄首相を退陣に追い込んだジャーナリストの新境地として記憶され、読 み継がれている。
 1981年の8月から9月の取材です。そのころ、「朝日ジャーナル」にロッキード裁判の傍聴記を連載し、生活の糧にしていたの ですが、裁判は毎週だから時間を取られる。本来の仕事に戻りたいというフラストレーションがありました。だけど、戻るにはまとまった時間が必要。可能なの は裁判の夏休み期間だけでした。
    ◇
 まだ簡単に海外取材ができない時代で、取材のアポを取るのはアメリカの広報文化局(USIA)にお願いした。ところが、ワシントンに行ったら担当者が夏休みでいなかった(笑い)。
 「それは大変だろう」と代わりに乗り出してくれたのが、日系2世のフランク馬場さん。それ以前に書いた『アメリカジャーナリズム報告』で、よく面倒をみてくれた人でした。すでにUSIAを引退されていましたが、電話で捜し出して泣きついた。
  アメリカの東海岸から西海岸へ移動しながら、取材を重ねました。一人の宇宙飛行士に話を聞き終えたら馬場さんに電話し、次の取材先を教えてもらって飛行機 に乗る。空港からレンタカーで取材先へ。実は、アメリカで車を運転した経験はなかった(笑い)。最初にフロリダ州で車を借りた時、親戚がたまたま留学して いて高速道路の入り口まで案内してくれ、すごく不安そうな顔をしていたのを覚えています。いやあ、本当に大変な取材でした。
 「中央公論」の連載 としての仕事でしたが、編集者も通訳も同行しなかった。取材は、私の乏しい英語力で四苦八苦しながら。ただ、あらかじめ英文の手紙で趣旨は伝えてあった。 相手がしゃべりたくないことを取材で聞き出すのは難しい。でも、相手がしゃべりたい時は上手な切り出しと適切な応答でうまくいくものです。
    ◇
  宇宙飛行士はみな、過去にいろんな取材を受けてきたけれど、本当に話したいことをメディアが質問していなかったのだと思う。宇宙飛行士、とりわけ月に行っ た人たちは人類の歴史の中で極めて特異な体験をし、その特異さを肌身で感じていました。それぞれ受け止め方は違うのだけれど、話を聞いていて本当に面白 かった。
 宇宙飛行士にも2種類あり、すごく知的な人と、そうでもない肉体派に分かれます。どの空港にもガールフレンドがいて「ドン・ファン」と 呼ばれた宇宙飛行士や、何人かの肉体派に出会ったことで、アメリカの思いがけない面も見ました。宇宙が分かったと同時にアメリカが分かった。
  12人の宇宙飛行士で特に印象が強かったラッセル・シュワイカートは、宇宙への進出を人間の進化と説いていました。遠くない将来、火星への有人飛行は実現 するのでしょう。木星や土星の衛星にも人間が行く可能性はある。でも、その先の距離を人間は克服できそうにない。学術的にも、コストとメリットを比較すれ ば、有人飛行よりロボットを使ったほうがいい。
 この30年で分かってきたのは、人間は極めて狭い宇宙に閉じ込められた孤独な存在だということです。この本で私は「宇宙体験がしたい」と書きましたが、もし若くて目の前にチャンスがあっても、宇宙へは行かないでしょうね。(聞き手=編集委員・村山正司)
    ◇
 たちばな・たかし 1940年長崎県生まれ。主な著書に『田中角栄研究 全記録』『日本共産党の研究』『中核vs革マル』『天皇と東大』など。菊池寛賞、司馬遼太郎賞受賞。

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